目撃    夏樹静子

文春文庫

剣道の早朝稽古にでかけた恭太少年は、崖から落ちるところを通りかかった男に助けられたが、男は、金融業殺しの犯人だった。

同時刻、夫の出張中に愛する男各務徹夫との情事を終えて帰途にあった桂木麻子は、二人を目撃してしまう。麻子の夫は、シクロ公害問題で住民の追求を受けている共立電化の総務部次長。各務徹夫は、この問題で純粋に学問的立場からではあるが、共立電化に有利な実験結果を出した大学助教授だ。

警察の追求を恐れた犯人側が、恭太少年を襲い、しかも危険が彼女自身にも近づくに従い、彼女はおびえる。犯人と思われた中谷浩司に呼び出されるが、彼はモーテルの一室で殺されていた。その結果、彼女は犯人と疑われる立場に置かれる。

さらにそれを知っているらしい殺された金融業者の女、林奈津実の脅迫、ところが彼女も各務と金を用意して待つうちに、行方不明になってしまう。

再度、少年が襲われる。麻子と各務は対策を協議、麻子が自首しようとホテルをでたところ、車に轢かれ、各務は重傷を負う。ところが捕らえられた運転手は、なんと夫。彼は事件を隠蔽し、さらの不倫の麻子を消そうとしたのだった。

真犯人は、金の問題で中谷と共謀して金融業者を殺し、自分の身を守るために中谷を殺し、さらには事実を知り、強請ろうとした林奈津実をも殺したのだ。しかし捜査が間近にせまり、追われる身となり、恭太を人質に逃走しようとする。


・医師は、同一人の死亡診断書を何通でも書く。これを利用して本当に死んだ自分の妻と殺した女の二人を別々の葬儀場で火葬に伏すと言うテクニックは面白い。(362p)
・睡眠薬を飲ませ、空気を注射して殺した男を女装させ、モーテルにアベックを装ってはいりこみ、階下に駐車させた車の排気ガスで死んだように見せかける中谷殺しのテクニックも面白い。
・シクロ公害についての記述も優れている(28p、230p)
・土地の縄のびを利用した詐欺事件記述も面白い。
・全体としては恭太少年の活躍と各務と麻子の熟年の愛が物語に深みを与えている。
・「仮の宿り」という言葉を、麻子は時折心に浮かべるようになった。 ・・・・「この世は仮のやどりなり。恥じても恥じても何ならむ・・・・・」(106p)

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