寒い国から来たスパイ     ジョン・ル・カレ

ハヤカワ・ミステリ文庫

ベルリンの壁が存在し、資本主義と共産主義が相対立していた冷戦時代の話し。
主人公リーマスの待っている西に戻ろうとして、東西ドイツの国境で、カルルが殺された。
あのムントという男が、東ドイツ諜報部副長官に赴任して、英国諜報網のほぼ全員が殺された。
任務失敗のため、諜報網幹部の任を解かれたリーマスは、管理者から密かな指令を受ける。
ムントを失脚させよ!
リーマスは、銀行で下働きをし、図書館で共産主義者リズとささやかな恋におちる、などしながら、彼は自分自身が身を持ち崩しているように見せかけた。
そんな彼にムントの元で働く腕っこきのフィードラー一派が近づく。
金で国を裏切れ、と言うのだ。
彼は受けたように見せかけ、ソビエトに潜入する。
執拗な尋問の中で、フィードラーにムントを疑うように仕向ける。
ムントは密かに英国に通じ、多額の資金を受け取っていたと・・・・。
フィードラーの告発により、ムントが裁判に掛けられる。
しかし、ムントは英国からおびき出したリズに証言させ、逆にフィードラーを告発する。
実は、フィードラーを失脚させることが、リーマスも知らされていなかった英国のねらいだった。
そしてその部分の仕事として、リーマスは、ムントを追いつめる役を演じさせられたのだ。
リーマスは、リズと共に、再び国境を越え、西側に戻ろうとするが・・・・・。

ル・カレのインタビューも一説が訳者のあとがきに載っている。
「僕がこの小説で、西欧自由主義国に示したかった最も重要で唯一のものは、個人は思想よりも大切だという考えです。・・・・どのような社会にあっても、大衆の利益に為に個人を犠牲にして省みない思想ほど危険なものはありません。」(332p) これがこの小説の原点であると思った。
格好良くなく、泥臭いスパイ生活が描かれ、人間が苦しみ、それを論じているところがこの小説の魅力と言えるだろう。

・奴らは、君の主張に関係なく、推理してかかるはずだ。こちらは資料だけ与えて、向こうの結論には、懐疑的な顔つきを見せておればいい。・・・それによって、彼ら同志の間に、当然疑惑が生じることになる・・・そこだよ。我々が狙うところは(134p)
・相手のない、自己単独の行動に生きるものは、常に精神上の危機にさらされている。(191p)
・コミュニズム社会の建設は、個人主義を絶滅しないことには出来ないんだ。敷地に豚小屋があったんじゃ、大きなビルが建たないからね。(302p)
・「わずかな代価で、大きな利益を」「多数のために、一人の犠牲」嫌な言葉さ。選ばれた奴こそ災難だ。(318p)