新潮社 ハードカバー
16世紀イタリア、都市国家ヴェネチアは、東につい先頃ビザンチン帝国を滅ぼしたオスマントルコ、西に勢力を全ヨーロッパにのばす勢いのスペインに対峙し、苦しい立場にあった。
マルコ・ダンデロと元首の妾腹の子アルヴィーゼ・グリッテイは幼友達で、共にエリートコースである秘密警察C.D.X.の元で働いた。
しかし、アルヴィーゼは、トルコに派遣され、スレイマン大帝とその宰相イブラヒムに気に入られ、重用されるようになる。
やがてスペインとトルコは、ハンガリーを巡って争う様になった。最初、トルコは、小国ヴェネチアにとってスペインに対する抑止力として働き、好都合だった。
しかし、スペインがフランスと組み、イタリアをねらいだした。するとハンガリー軍の指揮官がヴェニス出身であることは、困ったことになった。キリスト教徒であるアルヴィーゼが、イスラム教徒の将として戦うことに対する非難もたかまった。
一方トルコ旧廷内では、ロッセリーニというロシア出身の女性が、大帝の愛を受けた。彼女は、従来トルコでは持たぬ習慣になっていた皇后になる一方、政治に口を出し始め、イブラヒムの対抗勢力になっていった。
ハンガリーは、なかなか落ちず、国土をトルコとスペインで2分する形になっていったが、そのトルコ領内で小さな反乱が起こった。その処理の失敗から、孤立無援となったアルヴィーゼは、籠城の末、脱出を試み、捕らえられ、殺されてしまう。
ようようにしてトルコから逃げ帰ったマルコは、アルヴィーゼの忘れ形見の少女を尼僧院に訪ねる。彼はアルヴィーゼを殺したのはヴェネチアではなかったのかとふと考えた。
タイトルから考えると一見推理小説の様にも考えられるが、歴史小説と考えた方がいい。当時のヴェニス、コンスタンチノープルの様子などと共に、歴史の流れに翻弄される人々の姿がよく書かれている作品。
・スレイマンは、自分に常に正しくありたいという欲求を、人一倍強く持っている男だ。・・・・だがわがヴェネツイアが望んでいる相手は・・・・そうすることを最上の満足とする人物ではない。なぜなら、われわれが欲しているのは、妥協だからだ。妥協とは、自らにやましいところを持つと自覚している者だけがやれる。(155p)
・ヴェネツイア共和国だけが特別に、国民の忠誠をあてにしていたわけではない。国民の分別に、頼っていたのである。(306p)
・そう思うとマルコの頭の中に、そのとき突然、二人の女の姿が浮かんだ。 リヴィアと、そしてスルタン・スレイマンが皇后にするほども愛した、ロッサーナの二人だった。
・・・・二人とも彼女たちが愛した相手の男たちは、まっすぐ進めたかもしれない道を、曲がってしまった。(353p)