文春文庫
杉原渓子は、29歳のOLで、KTB(九州テレビ)放送のデイレクターだが、つきあっている男はいない。彼女自身が生来勝ち気な上、自分の夫になるべき人はこうでなければならない、職場の人間など問題にならないと決めていることに起因しているようだ。
ところがある時、弾みで「恋人くらいいるわよ。」と言って局をでた帰り道、人待ち顔の男につい声をかけ、ホテルに誘われ関係してしまった。男は連絡する、と言っていたがその後音沙汰無し、調べてみると偽名を使っていたことが分かった。
そして3ヶ月後の夜、アパートに戻るとあの男の死体。動転した彼女は、死体を近くの沼に捨ててしまう。しかし彼女の行為は、たちどころに警察の知るところとなり、殺人の疑いまでかけられる。男は真壁という建設会社の重役だった。
局仲間の立花洋介が偶然撮った写真から、真壁が待っていた女性は、堀崎早苗ではないかと考えられた。彼女は、数年前、夫と共に阿蘇南郷谷をオートバイでドライブ中に黒い車にひき逃げされた。その事故で夫は亡くなり、彼女は重傷を負った。ところがその彼女は真壁が殺される1ヶ月ほど前水死していた。
渓子と洋介が捜査を開始する。最初真壁がひき逃げ犯人で、それを知った早苗が強請ったので殺した、と考えたが、真壁が殺されたため、第三者Xが存在すると考えられた。渓子は「部屋に死体があったのは、近くのだれかが私の鍵を持ちだし、コピーしたに違いない。」と考え、同僚の北坂麻里子を疑う。しかし彼女は真壁が殺された時期、ハワイに行っていたと言う。奸計を用いてパスポートをチェックするが、日本に戻った形跡はない!。
そして「交通遺児と母親を守る会」に属し、渓子等と並行して事件を追っていた担当の森課長が失踪する。二人は謎を追って、阿蘇の精神病院、長崎の国際墓地と尋ね歩く。Xは真壁が起こした事件を目撃したのだろう。しかしなぜ逃げ出さなければならなかったのか。パスポートのトリックとあわせてこれらが明らかになり、犯人を追いつめる・・・。
青春は幻影と喪失の繰り返しなのかもしれず、その時代を通して人は成長して行く。事件が解決した後、渓子は洋介を見守り、思わず小さなため息をもらした。・・・しかし、彼女は、洋介と比較すべき幻の影を、すでに胸の中に持たなかった。杉原渓子にとって、幻の季節は終わろうとしていた。(350P)
殺人の動機にうすいものがなくもない感じがするが、全体としては語り口と言い、伏線のはり方といいよくできている。風景描写がさすがで、全体九州観光でもしているような気分になる。青春時代の幻影の終わりという点からは、もっと書き込んでも良いのではないかと思った。
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