天皇の密使   丹羽 昌一

文芸春秋ハードカバー

 1914年、内線続くメキシコでは保守派ウエルタ政権を追い出し、北部チワワ州を元匪賊の頭目、パンチョ・ビリャが支配していた。
 日本は表面上ウエルタ政権を支持するものの、革命軍につくべきだとの考えも一方にあった。そこで米国大使珍田は私人という名目でシカゴ領事館書記生灘健吉を派遣する。灘が苦労してチワワの在住日本人移民団を訪ねると、ビリャ軍が移民団に軍に加わらないかと誘いをかけているところだった。
 彼は、必死の努力で、金のほしい血気盛んな日本人の参加を抑える一方、ついにパンチョ・ビリャに応募を中止させた。次に、米国人作家ビアスに教えられ、日本人を低カリフォルニア州に移住させ、綿花農場で働かせようと考えた。
 ところが現地出発を前に、移民団団長の柳谷、代行の佐伯およびビアスが何者かに殺される。女中の混血児アサが内通していると見破った灘は、罠を張り、ついに警察署長のサンチェスを捕らえ、影の黒幕パルダ中佐が政府軍のスパイであることをビリャ将軍側に訴える。
 最後に、銃を振り回すことしか知らぬモントーヤ少佐との決闘を経て、灘は日本人を移住させる事に成功する。

 著者は、外務省勤務を経てスペイン語教師をしていると言うだけあって、全編にメキシコムードがあふれ、しかも半分以上が事実に基づいて書かれているため、歴史を知るという点でも面白い。
ただ、選評にもあるように、本論の事件が3分の2をすぎるまで現れない、しかも現れ方が唐突、トリックも工夫が感じられないなどの問題点がある。そのため、「このさきどうなるのだろう。」という手に汗握ったり、涙したりする盛り上がりが少ないように思った。


・大公使館の館員は国際慣例上、国の代表施設と見なされているのにたいして、領事館員は外国に駐在する一官憲にすぎず、国の代表権はないとされています。(40p)
・撃ち合いの際、もっとも大切なのは早さじゃない。正確さだ。 ・・・・拳銃の弾はそう簡単にあたらんもんだ。それに二十メートルも離れると、たとえ命中しても、まず死なん、有効射程距離はせいぜい十メートル、確実なのは五メートル以内だ。(289p)

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