Dの複合           松本 清張


新潮文庫

あまり売れない作家の伊勢忠隆は、天地社の雑誌の依頼を受け「僻地の伝説をさぐる旅」の連載を始めた。天地社は財産家の奈良林が道楽で始めたらしい小さな出版社。編集の浜中と浦島伝説、羽衣伝説で有名な丹後半島などを取材旅行に出かけるが、木津温泉で白骨死体の発掘現場に接したり、あるいは明石人丸神社で計算狂の坂口みま子という女にであったりする。ところが第一回の記事が載ると、あの謎の女坂口みま子が尋ねて来て、三十五の秘密を解いたかと思うと、熱海の山の中で絞殺されてしまう。第二回目の取材で美保の松原等に行く内、伊勢は自分たちが歩いている場所が北緯百三十五度、東経三十五度の線上であることに気がつく。愛読者と称する二宮健一とみま子のおぼろげな関係が浮かび上がってくる。
やがて突然の連載打ち切り、浜中、二宮等の失踪、武田編集長の不思議な水死と続く。警察は自殺と判断するが、直感的に伊勢は他殺と考えた。伊勢の鳥取三朝温泉、網走刑務所などへの事件調査の旅が続く。
そして浜中の出現と事件の解明・・・・。実は昭和十六年に起こった和歌山県加太岬で密航船の機関長が船長に殺された。しかしこれは船の所有者奈良林の教唆によるものだったが、船長一人が網走に収監され二十年の刑期を過ごした。その息子が実は浜中で、じわりじわりと奈良林に復讐しようとした。一方、奈良林は武田が犯人と考えて、二宮等に殺させてしまった、などという筋書き。

「霧の旗」などと同様の復讐劇でこちらは船での事件が発端になっている。綿密に調査され、実際にありそうに見せているところはさすがだ。煙草の吸い殻からの血液型調査、受刑者名簿の調査などに伊勢の捜査に対する積極性がうかがえるところがいい。全体読者に何が起ころうとしているのか分からせず、考えさせるところがミソ。またしかし、どうも浜中が過去の事件のために何かをしようとしていると言う構図は、早くに分かってしまうように思った。

・イデオサバン 数字に関する記憶だけは他の知能指数が低いのに関わらずずば抜けて高い。(213P)