ハヤカワ・ミステリ文庫 THE THREE COFFINS 三田村 裕 訳
「第一の棺 学者の書斎の問題」
英国生活の長いグリモー教授は、行きつけの酒場で仲間と吸血鬼談義をしていた。「わたしもまた、それに興味を引かれましてね。」と黒服姿の見知らぬ男が割り込んできた。男は「人間が立ち上がって棺から出て行ける、私はそれをやった。弟はそれ以上のことが出来る。三つの棺。」など不可解な発言をした後、教授に「近いうちにある男が訪問する。」と言い残して去った。男の名刺には奇術師、ピエール・フレイとあった。
その3日後、雪の夜、10時10分前、背の高い仮面をつけた男が、3階にある教授の部屋を訪れた。10時10分後に銃声が聞こえた。ホールを隔てて教授の部屋を監視していた秘書のミルズ等が駆けつけて、ドアをうち破って入ると、教授は胸を打ち抜かれ、訪問者は消えていた。訪問者はフレイなのだろうか。しかもその夜降った雪は、9時半には止んでいたが、訪問者の足跡は発見されない!フェル博士とハドレイ警視が関係者に尋問をくり返すが解決への道は遠い。教授は結局亡くなった。
「第二の棺 カリオストロ街の問題」
グリモー教授と特殊な関係にあるらしい秘書のスチュアート・ミルズやドレイマンじいさんの話から、教授の過去が分かってくる。ドレイマンじいさんはトランシルヴァニアを旅しているときに、三つの墓のうちの一つからはいだしてきたグリモーを助けた。話によるとグリモーはトランシルヴァニア独立運動に荷担した嫌疑で兄弟2人とともに逮捕されたが、刑務所で伝染病が流行し、疑われて埋葬されたという。彼はパリに出てかっての恋人デユモン等の援助の元に学位を取った。じいさんは否定したが、フェル博士は残りの兄弟も生き返ったのでは無いかと考える。
ところが犯人と考えられたフレイが自宅アパート近くの路上で翌朝射殺死体で見つかった。周りの証言で銃声が聞こえたのは10時半頃、と言うがなぜかまた死体を囲む雪に足跡がついていなかった。フレイの部屋からはおびただしい奇術の道具が見つかるが、どれを使ってもあの密室からの脱出は不可能に思えた。
「第三の棺 七つの塔の問題」
ブカレスト警察の調査で、ホーバート家の3人兄弟、グリモー、フレイ、ニコラスは1899年銀行強盗の罪で20年の懲役刑に処せられたが、伝染病騒ぎの中を、棺に入って脱走。グリモーは成功したがフレイは傷を負い失敗、ニコラスは死亡したとのこと。
刑期を終えたフレイが、今は教授となったグリモーを突然訪れ強請ったのだが、グリモーは逆にフレイ殺害を決意したようだ。シナリオは、デユモンの助けと鏡のトリックにより、あたかもフレイが教授を訪問し、殺害に失敗、自室で自殺したように見せかけるものだった。証人に、わざわざ正直一徹の秘書ミルズを利用することにした。しかし、フレイを撃ったものの、急所ではなかった。犯行を終えて外に出るが、追いかけてきた瀕死のフレイに撃たれてしまう。クリモーは、最後の力を振り絞ってフレイの訪問に見せかけて、自室に戻り、ガイフォークスの火薬を爆発させ、フレイが教授を撃ったような銃声を発生させた。グリモーとフレイの死が時間的に逆転したのは、大時計が狂っていたから。
フレイ暗殺も教授が自宅に戻ったのも雪が降っている間だったから、後から降った雪が足跡を消してしまった。
見せ物のような大トリックの解説が面白い。鏡を使って、あたかも部屋の中にいる教授をフレイが訪問したように見せかけるトリックだ。また17章に見られる密室談義も興味深い。技術的にはほかに13章の粉末アルミニウム、酸化第一鉄、マグネシウム粉による吹管トーチ、19章の灰になった紙から文章を読みとる技術なども面白い。
最後に解説から。ジョン・デイクスン・カーという名前は本名で、1906年生まれ、1928年郷里のペンシルヴァニア州ハヴァフォード・カレッジを卒業後パリに留学、2年ほどでニューヨークに舞い戻り、1930年ニュウヨークのホテルで処女作「夜歩く」を書き、ハーバー社からハードカバーで五万部売るという幸運な出だしをした。1931年、イギリス人クラリス・クラーヴスと結婚、イギリスに渡り以後十七年間イギリスに住み、数々の作品を発表したが1948年、戦後イギリスの不自由な生活にいや気賀刺し、アメリカに帰り、さらに1954年頃イギリスに戻っている。(374P 訳者)
(1935? 29)
密室の講義(第17章)のポイント
対象とする密室
ドアが1つ、窓が1つと、頑丈な壁を持った箱のような部屋、
ケース1 密室の中で犯罪が行われたが、殺人犯はそこから脱出しなかった
1 被害者が自分で密室にしたもの
(1)さまざまな偶然がかさなって、みたところ殺人のような偶発事になってしまったもの。
(2)被害者が自殺とか、事故死とかにやむなく追い込まれてしまうもの。
・ ・・・外部から送られたガスにより被害者が凶暴になり、自分自身の体へナイフで切りつけてしんでしまう。
(3)わざと殺人のように見せかけた自殺
・・・・ゴム紐の端に結びつけた銃で自殺する。
2 機械的な仕掛けによるもの
・・・・電話の受話器の中に隠された銃の仕掛けで、受話器を取り上げると弾丸が発射され、」被害者の頭を打ち抜く。致死性のガスを発生するベッド。
3 錯覚や偽装によりあたかも密室状態の時に被害者が殺されたと見せるもの
(1)殺人がその状態以前
・・・・殺した後、被害者を装って密室からぬけだす。
(2)殺人がその状態以降
・・・・死体発見時にいの一番にかけつけ、昏睡状態の被害者を殺してしまう。
4 犯人は室外にいたのだが、室内にいた人物によって行われたにちがいないと見られるもの
・・・・つららを弾丸として外から打ち込んだ場合(岩塩の弾丸、凍った血液の弾丸なども例がある。)
ズームドルフ殺人事件では太陽が犯人。
ケース2 ドアから脱出する場合
1 鍵穴に鍵をさしこんだままで細工する方法
・・・・てこを鍵の頭のところの穴につっこんでおき、それを紐で操作する
2 差し金に細工をする方法
3 カンヌキや掛けがねをおとす仕掛け
・・・・カンヌキの下に氷など
4 錠や差し金にはさわらぬようにして、ただ単にドアの蝶番をはずしてしまう法
5 錯覚の利用
・・ ・・いの一番に駆けつけ、手の中に隠した鍵を、あたかも差し込んであ った鍵を見つけたふりをして取り出し開けるもの。
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