九マイルは遠すぎる ハリイ・ケメルマン
ハヤカワ・ミステリ文庫 THE NINE MILE WALK 永井 淳/深町 真理子 訳
安楽椅子探偵物であるが、事実から演繹する内容が高度で非常に考えさせる作品が多い。
形式は群検事の私が英語・英文学教授のニッキイ・ウエルトと相談しながら解決して行くスタイルを取っている。
九マイルでは遠すぎる
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ。」これだけの用語から
・九マイルと正確に言っているからどこかの田舎から街へ行く話だ。
・九マイルが大変ならスポーツ選手が言った言葉じゃない。
・普通はバスがあるはずだから、こう言ったのはバスのない時間に伝言を受け、歩き出し、バスが来る前に目的地に着いたに違いない。
などと推論し、実はこの条件にあう殺人事件があったことを突き止める。
わらの男
金持ちのフィリップを兄に持つジョン・リーガン教授の娘が誘拐され、雑誌の切り抜きを使った身代金要求。身代金を払って娘は帰ったが、要求書には指紋の跡。ニッキイは指紋が共犯者の協力を得るためにつけられた物で、ねらいはフィリップから金を引き出すこと、犯人はジョン・リーガン自身と見破る。
10時の学者
互いに争うコーンゴールド教授とホーソン教授。ある日、ホーソン教授の愛弟子で、学位論文発表予定の学生、ベネットがホテルで鈍器で殺された。現場には錘の着いた短剣、ベネットと隣室の学生が争ったところがホテルのボーイに寄って目撃されていた。しかしニッキイは短剣は何か他の凶器を使ったのを偽装するために置かれたと判断、ホーソン教授が、自分の学説を否定する論文を発表する予定だったベネットを、ステッキで殴り殺したと断定。
エンド・プレイ
マクナルテイ教授とアルブレヒト教授がチェスはチェスをしていたが、アルブレヒト教授がちょっと席を立った隙にマクナルテイ教授が撃たれた。教授はトロウブリッジなる学生を強くしかり、しかも彼が事件当時近くにいたことから彼が犯人とされる。しかしニッキイはチェスの駒の並べ方、取られた駒の置かれていた位置から、殺人後、チェスの駒を並べ、ゲーム中に見せかけた物と推定。アルブレヒト教授を指弾する。
時計を二つ持つ男
ジャックが「伯父が階段から落ちて首の骨でも折ればよい」という熱烈な願望を口にした。そしてその通りになった。何か超自然現象的な物があるのだろうか。伯父は時計をふたつもっていた。ジャックはその一方をすすめておき、伯父が階下に確かめに行ったときに、外で銃を発砲。あらかじめ皺をよせてあった絨毯に、伯父は驚いて足を踏み滑らせて死んだのだった。
おしゃべり湯沸かし
「木の葉を眺めれば地球の回転速度がわかるかどうか。」そんな疑問に答える短編。エリックとプロジェトは親しいがプロジェットは裕福、エリックは逆。プロジェットのもとにアデルフィの壺なる高価な壺がとどくことになっていた。プロジェットあての手紙をエリックが「自分が渡すから。」と受け取り、自室へ。湯沸かし器の音が聞こえだした。
これから「プロジェットは送られてきた壺を、駅のロッカーに預け、その鍵を自分宛に送った。エリックは封筒をあけ、鍵を取り出し、ロッカーの中の壺を別のロッカーに移し、鍵はもとに戻してプロジェットに返すに違いない。」と推定する。
ありふれた事件
ミスター・ジョンが殺されて雪の土手の中に埋もれているのが発見された。ミスター・ジョンとリリーは結婚する予定だったが、テリーという男もリリーが好きで疑われた。実際は貧乏な甥のフランクと母親が、もし、ミスター・ジョンとリリーが結婚すれば、この先面倒は見てもらえない、その上ミスター・ジョンにもしものことがあると、遺産がフランク母子を素通りしてリリーに行ってしまうと恐れたのだった。雪の中に埋めたのは、死体発見を遅らせることによって、ミスター・ジョン発行の小切手を期限内に現金化しようとしたもの。
梯子の上の男
出版した本がヒットした歴史学科のバウマン教授が、工事中のピットに落ちて死んでいるのが発見された。ダイクス助教授が、カメラファンのレッサーに自分の家にアンテナをつけることを頼んだ。地下室に通じる開き戸の上に梯子を立てて工事を始めた。ラードローがダイクス助教授を訪問しているときに、レッサーが梯子から落ちて死んだ。
実は最初の殺人はダイクス助教授がバウマー教授の著作の内容を横取りしようとして起こした殺人。
その現場をレッサーが写真で取って強請ってきた。そこでアンテナ工事を頼み、工事中に人には聞こえぬ犬笛をふき、地下室から犬を飛び出させ、梯子をひっくり返した物だった。