熱い街で死んだ少女       トマス・H・クック


文春文庫  STREET OF FIRE  田中 靖 訳

 1963年5月アラバマ州バーミンガムは、キング牧師の演説と黒人の公民権運動デモで揺れており、警察はその対応に苦慮していた。公園で黒人少女の銃殺死体が発見され、白人部長刑事ベンは、ルーサー警部に捜査を命ぜられる。
 その日、貧民街に住む少女ドリーンは、次期市長候補ダヴェンボードのもとにお手伝いに行っており、彼に送られて帰り、公園で別れた後、殺されたとわかった。公民権運動デモは盛り上がっており、取り締まりを命ぜられたラングレー兄弟は、黒人に暴力を振るうことに熱心で、「黒人のことは黒人に任せておけ。」と忠告する。しかしベンは捕らえられているコギンスまで動員して黒人の情報調査に当たり、次第に彼らの考え方に理解を示すようになる。黒人の世界を取り仕切るロイ・ジョリーに教えられ、犯人はうすのろの黒人浮浪者ブルートらしいと知るが、彼は銃殺されていた。
 同僚のブリードラヴが、密告者のレッテルを貼られて惨殺される。誰に何を密告しようとしたのだろうか。ダヴェンボードは公園に少女を送った際、ラングレー兄弟にスピード違反をとがめられていた。ラングレー兄弟が、直前に行った犯行を隠蔽しようとして、とがめたのではないかと考え、隠れ家を調査するとブリードラヴ殺害の証拠の指輪が出てきた。そのほかにも怪しげな品が出てきてラングレー兄弟は職を追われる。
 しかし彼らの強い否定に疑念を持ち、さらに捜査を続けると、何者かに相棒のダニエルズが射殺されてしまった。そしてキング牧師の宿舎の爆発、牧師の危機一髪の脱出。ベンは、ついに彼が少女が死ぬ直前、ロイにあっていたことを突き止める。密告者はダニエルズ、密告目撃者の少女を殺した犯人は、ロイ・ジョリーだっだ。彼はラングレー兄弟を少女殺しの犯人に仕立て上げ、キングを追い払って黒人たちのボスにつこうとしていた。
 あいかわらず黒人に暴力を振るうことを命じる本部長、黒人内部にも巣くう腐った奴ら、密告者、それらに嫌気がさしたベンはバッジを返すことを決意する。

 黒人のデモの様子、それを取り締まる側の警察の混乱が非常に良く描かれている。作者の黒人問題に対するスタンスも非常にわかりやすい。同時に優雅な白人達、狂信的に黒人達を排斥しようとする白人達、ベンの悩みと心境、貧困にあえぐ黒人達がリアルに描かれており、当時の黒人運動、ひいてはアメリカ社会の問題点を理解する上で役立つ。
 いたずらにハッピーエンドにせず、主人公がバッジを返す形で終わるエンデイングもこの問題の根深さを示すており、良いだろう。ただ、主人公がどうして黒人運動に理解を示すようになったかが語られていても良かったのではないか。

・我が国は三つのイズムに毒されておる。すなわちコミュニズム、ソーシアリズム、ジャーナリズムである。(77P)
・「警察権力は暴力に対抗する手段は知っているが、非暴力に対してはいかに対抗すべきかを知らない。非暴力は警察を混乱に陥れる。彼らは非暴力にはなすすべもないのだ。」「・・・・我々は暴力にどう立ち向かうか知っている。そして、神に誓って非暴力に見せかけた暴力に対抗する手段も心得ている。」(79P)

この小説の中でデモ隊が歌うWe Shall Overcomeについて
「われらは必ず勝利を手にするぞ」 1960年代以降、アメリカで大きなうねりとなって社会を動かした公民権運動で歌われた歌の題名、また、その最初の部分。元、黒人霊歌であったが、公民権運動のなかで歌われるうち、黒人以外にも公民権運動に加わったマイノリティーとよばれる人々に広く歌い継がれた。わが国では「勝利をわれらに」という題で知られる。また、このことばはさまざまな市民運動のスローガンとしても使われる。


We Shall Overcome

We shall overcome, we shall overcome
We shall overcome some day
Oh deep in my heart, I do believe
That we shall overcome some day

We'll walk hand in hand, we'll walk hand in hand
We'll walk hand in hand some day
Oh deep in my heart, I do believe
That we shall overcome some day

We shall live in peace, we shall live in peace
We shall live in peace some day
Oh deep in my heart, I do believe
That we shall overcome some day

We shall brothers be, we shall brothers be
We shall brothers be some day
Oh deep in my heart, I do believe
That we shall overcome some day

The truth shall make us free, truth shall make us free
The truth shall make us free some day
Oh deep in my heart, I do believe
That we shall overcome some day

We are not afraid, we are not afraid
We are not afraid today
Oh deep in my heart, I do believe
That we shall overcome some day

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