ハヤカワ・ミステリ文庫 THEY CAME TO BAGDAD 中村 妙子 訳
クリステイはいくつかの冒険ものを書いているが、その中でも傑作の一つだろう。
主人公のヴィクトリア・ジョーンズ嬢は、明るく派手で、頭が良く、行動力があり、しかも嘘が得意。彼女は上司の妻のまねをして、会社をクビになった。途方に暮れているとき、これからバグダッドにゆくという青年エドワードに一目惚れ。彼女は、クリップ夫妻の世話をしながら、後を追ってバグダッドに渉ることに成功、さらに再会したエドワードの手引きで彼の属する「オリーブの枝の会」に雇われる。
そのころ共産主義と資本主義の双方を戦わせ、世界を支配しようと何者かが動いていた。そして彼らの陰謀を握った秘密諜報員のカーマイケルが、ホテルの彼女の部屋に忍び込んできた。しかし、彼は既に刺されており、不思議な言葉を残して死んでしまった。それがきっかけで事件に巻き込まれた彼女は、飛行機で一緒だった探検家ルーパトが殺されたことを知るが、彼がホテルに着いたとき偽物に変わっていたことに気づく。
やがて彼女は誘拐され、砂漠の中の村に監禁されるが脱出、ジョーンズ博士等を中心とする考古学者グループに救われる。そしてバグダッドにもどったところ、エドワードと再会するが、この時になってあの「何者か」の首領が、エドワードであることがはっきりする。彼らは「オリーブの枝の会」を使って勢力を伸ばそうとしており、すでにカーマイケル、ルーパトの二人を倒していたのだ。そして今、証拠を握る第三の人物シェーレ嬢を誘拐、ヴィクトリアに身代わりにならせた上、殺そうとしているのだ。
武装した尼僧に付き添われて、身動きもならぬ状態で、ヴィクトリアはいよいよシェーレと交代の旅に出かけるが、救いの手はくるのか・・・・。
・力によって至福千年期を人類にもたらすことができるという幻想は、およそ存在する限りのもっとも危険な幻想です。・・・・上層の一部の人間の力に信をおく思想・・・堕落した世界を超人が支配しうるという考えは、あらゆる信念の中でもっとも危険なものなのですよ。というのは「俺はほかの人間とは違う」と言うとき・・・人間は彼が常に獲得しようと勤めてきた二つのもっとも貴重な資質を失ってしまうのです。すなわち謙遜と人類の連帯です。(153P)
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