バートラム・ホテルにて     アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 AT BERTRAM'S HOTEL 乾 信一郎 訳

 昔グランド・ホテルという映画を見たが、あの雰囲気を感じた。
 ホテルにはいろいろな過去をもったいろいろな人が出入りする。ここロンドンのバートラム・ホテルはエドワード王朝の面影を残した格調高いホテルだがそれに変わりはない。クリステイは推理もの他にスパイもの、活劇ものなどの作品を多く書いているが、全体としてはその中間に位置づけられる作品と思う。

 導入部は、姪の助言で気分転換に来たミス・マープルとホテルに出入りするそういった人々を描写している。二十一歳になったら莫大な財産を引き継ぐことになっているエルヴァイラ嬢、その後見人の一人ラスコム大佐、女流冒険家で次々と男を替えているらしいセジウイック、セジウイック、エルヴァイラ嬢双方と何か怪しいレーサーのマリノスキー、そしてハンフリーズ、ゴーリンジ女史、ゴーマン、ヘンリーなどのホテルのスタッフたち。
 しかしあやしげなスタッフたち、毎年変わる顧客、宝石をくすねようとしたり、自分のもらえる財産を弁護士に問い合わすなど不審な動きを見せるエルヴァイラ嬢などがミス・マープルにおかしな感じを抱かせる。
 そのころ列車強盗が起こり、大金が奪われた。このホテル関係者数人が皆アリバイはあるも数人現場にいたというおかしな情報が寄せられた。その直後、ルツエルンに行く予定だった牧師のベニファザーが夜中にホテルに向かった後行方不明になった。彼は気がつくと田舎の農家で介護されており、証言によってホテルに送り届けられた。
 当局とミス・マープルはホテルの影の支配者が名うてのワルウイリアム兄弟を突き止める。なぜ彼等はこんなどう考えても赤字のホテルを経営しているのか。そして自動車のナンバープレートを素早く付け替えるシステムを発見する。
 そんなおり、銃声とエルヴァイラ嬢の叫び声。ホテルのドアマンのゴーマンが撃たれた。エルヴァイラ嬢の証言によれば、何者かが彼女を狙撃したが、間一髪ゴーマンが飛び出し、変わりに撃たれた、と言うのだ。そして彼女はセジウイックの胸に「お母さん・・・。」と飛び込む。当局は彼女が自分の出生を調べていたことを知る。
 最後にミス・マープルと警察が謎解きをする。(1)このホテルが犯罪組織の中心であり、集められた金はここから客を装った一味によって海外に持ち出されていた。ヘッドはセジウイック女史、ほとんどのスタッフと客の半分くらいが一味である。(2)牧師が連れ去られたのは、替え玉を見てしまったから(3)ゴーマン殺しの犯人は当初考えられたマリノフスキーではなく、秘密を知ったゴーマンをセジウイック等とあばく。
 そして逃げ出したマリノスキーとセジウイックの死。しかしミス・マープルはセジウイックの亭主がゴーマンで、それが事実となると遺産をもらえなくなるエルヴァイラ嬢が撃たれたふりをして撃ち殺したと暴く。

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