文春文庫 BLACK DAHLIA 吉野 美恵子訳
私は元ライトヘビー級ボクサーでロス市セントラル署勤務、同じ課にリーがいたが彼もまた元ボクサー、まわりにおだてられて警察内で十回戦のボクシングをやった。それが縁で私は彼とパートナーを組むことになった。そして彼の恋人ケイを交えてハッピーな日々を送っていた。
1947年1月15日、ロサンゼルス市内の空地で胴ののところで二つに切られた、内蔵を抜き取られ、無数の暴行の後を残した女性の惨殺死体が発見された。彼女は二十二歳のエリザベス・ショート、ハリウッドスターにあこがれて田舎から出てきたものの、端役にありつけず、娼婦まがいのことをして糊口をしのぐというお定まりのコースをたどっていた。
この事件に、リーは折から取り組んでいた凶悪殺人犯捜査も中止して取り組む熱のいれぶり。しかしケイの元恋人で銀行強盗のデウイットが出所してくると、なぜか出奔、その後デウイットの射殺死体が発見される。
私は、後を受けて事件を捜査する一方、ケイの他、事情を聴取していた土地開発業者、エメット・スプレイグの娘マデリンとも良い関係になる。マデリンは、殺されたエリザベスにそっくりの姿をして見せ、私を悩ませる。ふとしたきっかけで巡査部長フリッツ・ボウゲルの息子ジョンが事件直前彼女と一緒だったことを発見し、捜査すると、彼は変態主義者、他にフリッツの地位を利用した強請も発見する。犯人かと色めき立つが、この結果フリッツが自殺し、決定的証拠も発見されず、仲間から疎まれて捜査からはずされ、鑑識に回される。
映画関係者を当たったところ、彼女が演ずるエロ映画が発見され、撮影場所を求めてメキシコ近くまで出かけるが、リーはそこで殺されていた。しかもショッキングだった事はリーが実はデウイットと同じ強盗団の一味だったことがわかった。
エリザベスは、殺害される直前に、ある伍長の紹介で妊娠の可能性を問いに医者に行っていることがわかった。その医者を捜し出すと、なんとエメット・スプレイグの友人のジョージイ・チルデンで彼はまたマデリンの父だった。そこでジョージイの館に忍び込むと、エリザベス殺人の証拠の数々。しかしジョージイは、捜査中に射殺されてしまった。
事件は解決と思われたが、私はエメットの妻ラモーナが、恋人のジョージイの惚れた女エリザベスを殺したものと断定する。さらにリー殺害が、自分を得ようとしたマデリンの犯行であることを発見する。しかし、警察当局の問題で、事件はうやむやのうちに終わり、私は解雇され、新しい生活をケイと始める。
実際にあった事件を元に作り上げた作品。しかしここでは暴力的ながら、真相解明に全力を尽くす警官の生の姿を描くことに力点がおかれている。併せて事件によって触発された登場人物のそれぞれの暗い情念が渦巻いている。ある者は惨殺死体を見て欲望の枷をはずされ、ある者は過去の出来事に支配され、あるものは嫉妬に駆られ、それぞれが考えられない狂気の世界に走って行く・・・そんな様子が克明に描かれている。
ただ暴力も性描写もものすごいが、それを見せようとしているわけでは無く、著者はむしろ真摯に書き上げている。描写のすごさは実体験に基づくものとの事だが、そうであればそのような経験をつんだ後に、一段の高見にたった目を通して書かれた作品と言うことができようか。
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