ハヤカワ・ミステリ文庫 THE MURDER AT THE VICARAGE 田村 隆一 訳
おなじみセント・メアリ・ミード村の牧師館の書斎。ある朝、オールド・ホールの旧弊で頑固者治安判事ルシアス・ブロズロウ大佐が、射殺死体となって発見された。アンはルシアスの若い後妻、牧師館と同じ敷地内にあるアトリエを創作現場にしている画家のロレンス・レデイングと怪しい関係。
この事件を州警察のスラック警部が、やたらに警察の権威を傘に来て騒ぎ立て、牧師のレナード・クレメントが主人公となって語り、最後はこの事件で始めて登場のマープル女史の助言で解決するという筋立てをとっている。
捜査は、スラック警部がロレンスを逮捕、ロレンスが自供するが、すぐにアンも私がやったと主張するなど、いささかどたばためいて進行する。読者が予想する通り、それぞれ相手がやったと思って自供したらしく一応は嫌疑が晴れる。
アリバイ崩しの典型的な作品である。レナード牧師は偽電話で犯行時刻に呼び出されていた。牧師の妻グリセルダや使用人は、前日からロンドンに行っていていない。画家もちょうど外に出ていた。正門からは誰も出入りした者がいない。牧師館には、ちょうど尋ねてきたブロズロウ夫妻しかいなかったはずだ。ところが牧師館の裏にマープル女史の家があるのだが、妻のアンは少し前に出かけるところを女史に目撃されている。犯行現場には凶器となった銃と針の進んだ時計。しかも銃の発射音が犯行時刻よりも大分後に聞かれている、と言う具合で謎がいっぱい。自殺と考えられなくもない。
しかもこれに近くで遺跡発掘をしているストーン博士、謎の女レストレンジ夫人、ルシアスの跳ね返り娘レテイスなどがからみ事件を一層複雑に見せている。
しかし消音銃、ピクリン酸の衝撃による爆発音、出かけると見せて実は戻った女、次々に発見される謎の手紙や書類などの真相を見破ったマープル女史の、深い洞察力と慧眼が、事件を最後に解決に導いて行く。もちろん動機は財産と不義の恋の成就!
他の同作者作品に較べて、牧師、メイドのメアリ、有閑夫人たち、スラックなどの人物のかき分けが良く出来ているように思った。また舞台に「書斎の死体」や「鏡は横にひび割れて」などと同じセント・メアリ・ミード村が使われいる事も特色で、何枚かの地図が説明に使われている。作者が40歳と油の乗り切っている時の作品で、謎が新鮮である。
・マキシム式消音銃(326P)
・ピクリン酸って、上から何かを落としたら爆発するんですから。・・・その石を結晶の上に吊しておいて、時限装置とか、それとも導火線でしょうかしら?とにかく二十分くらいで燃えてしまうような仕掛けをしておいて・・・・六時三十分頃に爆発するようにしたのでしょう。とっても安全な装置ですわ。だって、後で発見されるものと行ったら・・・大きな石が一つだけなんですものね!(328P)
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