ブラウン神父の不信       G・K・チェスタトン


創元推理文庫 THE INCREDIBILITY OF FATHER BROWN 中村 保男 訳

真ん丸な童顔には澄んだ目がぱちくりしている。不格好な体に大きな帽子と蝙蝠傘といういでたちのブラウン神父が解決する難事件。
叙述は痛烈な風刺とユーモアにあふれ、というところだが、われわれ現代人にはちょっと冗長で読むのに苦労する。事件あるいは犯行過程の詳細記述がすくなく、しかも神父はシャーロックホームズよろしく神懸かり的に事件の答えを出してしまうところが難点。しかし推理小説の種になりそうなアイデアがいっぱいで、一度は読んで見るべき作品なのかもしれない。ブラウン神父シリーズは全部で5巻あり、これは3冊目。

犬のお告げ
小径を通ってしかゆけぬあずまやで、老人が刺し殺され、凶器は見つからない。小径を通過した者はいない。垣根の外は海岸、遅れて現れたハリーが、沖に向かって持参の杖を投げる。ところが犬は途中から戻り、主人を見て悲しげな顔。神父は「投げた杖に剣が仕込んであったのですよ。ハリーは老人を刺し殺した後、垣根をくぐって海岸にでて、凶器の杖を沖に向かってなげた。ところが杖が沈んでしまったから、犬は発見できなかった。」

天の矢
凶悪犯ダニエル・ドウームは警告「コプトの杯を持つものに不幸が訪れる」。今までに二人が死んだ。そして今ブランダー・マートンは、空中の一室に秘書の男を見張りにたてて、ひっそりと潜む。しかし、元インデイアンの男など二人が訪れた直後、首に矢を突き刺されて死んだ。矢はどこから飛んできたのか。実はブランダー・マートンは、凶悪犯ダニエル・ドウーム、見張りの男は、殺された男たちの縁者、密かに復讐の機会をねらっていた。

ムーン・クレサントの奇跡
ホテルの14階、富豪の男が客も帰りくつろいでいると、外で銃の音。なんだろうと窓を開けると一階上の窓から下りてきた先端が輪になっている紐に首を突っ込む。そのまま紐が吊り上げられ、男は絶命。死体はそろそろと地上までおろされ、別の男が受け取って松の木につるす、というなんとも人を馬鹿にしたような殺人劇。
畦上道夫の「推理小説を科学する」に、このような殺人の可能性について議論がされている。

金の十字架の呪い
大巨船モラヴィア号の一つのテーブルに考古学のスミール教授など6人。教授はビザンチン文明の遺跡を訪ねに行く途中。ところが神父に「ねらわれている。遺跡までついてきてほしい。6人のうち遺跡まで追いかけてきた者が犯人に違いない。」と頼まれる。遺跡に着くと皆来ていた。その上、その地をよく知る教区牧師の案内で、教授が棺のふたを開け、中を覗くと、ふたが自動的に落ちてきて重傷。神父は「中のミイラは殺された教区牧師、その牧師を装った男こそ犯人、考古教授と地区牧師を殺したかった。」
死んだばかりの人間とミイラを間違えてくれるかどうかは疑問。

翼のある剣
三人兄弟のうち二人を殺したストレーク、いま3番目のアーノルドは、空から剣を携えておそってきたストレークを撃ち殺したと主張。雪つもる庭には、黒マントの男の死体。神父は「あなたこそストレークだ。この部屋でアーノルドを撃ち殺したが、私がやってきた様子。あなたは死体に黒マントを着せ、窓から雪の上に投げ飛ばした。」

ダーナ・ウエイ家の呪い
おちぶれたダーナウエイ家には7人目の相続人が自殺し、その妻が夫殺しの罪で処刑されるとの伝説。神父が関係者と乗り込むと、案の定、階上で肖像画写真を現像していた新郎が、死体となっていた。実は犯人が、秘密の通路を伝って階上にゆき、新郎を2日前に殺し、彼に成りすまして現像をするふりをいた。そして問題の時刻に神父に死体を発見させた。

ギデオン・ワイズの亡霊
町に3人の富豪と3人のコミュニスト。富豪たちがコミュニストを逮捕する、と驚かせたその晩富豪たちは3人とも殺されたらしい。そしてコミュニストのひとりが富豪の幽霊に悩まされ、犯行を自供。富豪のうちギデオン・ワイズだけが生き返ったが彼はコミュニストを許すという。実は富豪の一人がコミュニストの一人を巻き込んで起こした殺人劇。