創元推理文庫 THE SECRET OF FATHER BROWN 中村 保男 訳
ブラウン神父の秘密
スペインで隠遁生活をしている昔泥棒として、探偵として働いたフランボウの元にブラウン神父がやってきた。」これにアメリカ人観光客チェイス氏が加わる。推理の秘密を聞かれてブラウン神父は犯人になりきることです、という。納得しないと具体的な例をあげて説明し始めた。
大法律家の鏡
バグショー警部と素人探偵家アンダーヒルは深夜グイン判事宅あたり二発の銃声を聞いた。かけつけると泉水の岸辺の築山にグイン判事が倒れていた。玄関のホールは鏡がほとんど枠だけになり、高い鉢植えの棕櫚の木が倒れ、えんじ色の植木鉢が木っ端微塵になっていた。新聞記者マイクル・フラッド、ブラウン神父、召使いのグリーンなどが見つかる。詩人のオズリック・オームは、2時間前にグイン判事を訪れた、と言うことで行き止まりの階段の奥に隠れていた。オームに容疑がかけられ、検察側弁護人アーサー・トラヴァース卿はなんとか有罪にしようとするが…。鏡に映った像を本物と間違えてうち、玄関ホールが滅茶苦茶になった、というところが面白い。
顎ひげの二つある男
サイモン・バンクス氏は大胆不敵な犯行で知られるムーンシャインの出現を恐れている。彼の元には高価なエメラルドを持つ妻、心霊現象に夢中の令嬢オバール、自動車狂の長男ジョン、次男フィリップ、フィリップの友人デヴァイン。近くにはブナ屋敷のブルマン卿一家、スミス爺さんとその養蜂園に滞在するカーヴァー氏。スミス爺さんがジョンの車で遠方に行った後、髭を生やした幽霊騒ぎが起こり、プルマン卿の元から夫人の宝石が盗まれた。さらに賊はバンクス夫人の宝石を盗ろうとしたが、ジョンと争いになり、その銃弾に倒れた。そしてつけ髭の下からのぞいた顔は、何とスミス爺さんではないか。ブラウン神父は、スミス爺さんがもう一つ髭を隠していたことを指摘し、彼はムーンシャインだが、今度の事件には別に犯人がいると指摘する。死体を幽霊として使うところが面白い。
飛び魚の歌
スマート老人は金の金魚を金魚鉢に吊して自慢していたが、ある時秘書ボイルと事務主任ジェームソンに管理を任せて家を空けた。緊張したボイルが金魚の夢から覚めると、ジェームソンが表の誰かにとがめていた。「誰だ、そこにいるのは。」そして彼はボイルに表に誰かいる。玄関に閂をかけてくる。」と階段を駆け下りた。ボイルの目にターバンを巻いた男が映り、彼は「金の魚は我に帰りきる。」との歌を歌い、楽器をかき鳴らした。器の砕ける音がし、ジェームソンが階段を登ってきた。二人で奥の間に入ると金魚鉢が割れ金魚が無くなっていた。しかし神父は閂を開ける音が器の砕ける音に聞こえること、足跡から外に逃げた人間がいないことを指摘し、犯人をいいあてる。
俳優とアリバイ
劇場支配人のマンドヴィル氏は、時々自分の部屋でどこかの女性と会っているらしいとの話しだった。一方、俳優である夫人は賢夫人の誉れが高く、今度の劇でも美人役をマローニ嬢に譲り、自分は悪役を買って出ているとの事だった。マンドヴィル氏が自室で刺殺された。犯行時刻マローニ嬢がすねて自室に閉じこもっていたため、残りの者は彼女抜きで練習をしていたからアリバイがあるように見えた。しかしブラウン神父は今度の劇が「醜聞学校」で悪役が主役であること、夫人がノーマンと親しかったこと、直前にパントマイムを計画しため、切り穴がいくつもあることに目を付けた。
ヴォードリーの失踪
ヴォードリー卿は肉屋、雑貨屋、煙草屋、文房具屋くらいしかない川沿いの小さな村に出かけたまま行くえ不明になり、その後喉を切られた死体となって発見された。卿の元には子供の時から養われているシビル嬢、その婚約者らしいドールモンなどが住んでいる。ブラウン神父は、煙草屋がこのような田舎では時に床屋に変わることに気づき、犯行場所と犯行方法を特定した。さらにドールモンに殺人の前科があり、卿はそれをもとに強請を続けていたが、シビル譲との結婚後警察に訴える予定だったらしいことを発見し、動機が明白になった。
世の中で一番重い罪
悪い噂の絶えないマスグレーヴ大尉が、ノーサンバーランド州にいる父君の死亡後弁済と言う形で金を借りたいと申し入れてきたがどうすべきか、と言う相談を受けた。父親はすでに七十を越えているから死ぬことは確実だ。「父が私に相続させるかどうか聞いてきたらいい。」の言に従い、神父が弁護士グランビーと城に赴くと、父親のジョン・マスグレーヴ卿らしき男が歓待し、財産はすべて息子に譲る、と保証する。しかし部屋の中の調度品がすべて対になっているのに、甲冑だけが一つしか無いことに神父は疑いの目を向けた。
メルーの赤い月
中世修道院であったが、今ではマウンテイーグル卿の屋敷になっているマロウッド屋敷で慈善市が開かれた。主役は令夫人、その友人のトミー・ハンターとハードカースル、それに水晶や手相で運勢をうらなう山岳尊師、骨相学者フローゾである。メルーの赤い月というのは令夫人の持つ大きなルビーの名称。茶色い手が柱の影から忽然と現れ、ルビーを奪って消えた。同時にハンターが「捕まえたぞ!。」と山岳尊師の手を片手で押さえた。しかしルビーは消えていた!手を茶色に塗り、手袋で隠していた、というアイデアはずいぶん馬鹿にしているようだが、面白い。
マーン城の喪主
マーン城の盟主ジェームズ・メアはかって仲の良かった弟モーリス・メアと女のことで争い、決闘、射殺してしまった。それをいたく恥じ、しばらく外国に行っていたが、修道僧となって戻ってきた。そして人に会うこともなく鬱々とした日々を送っているという。しかしブラウン神父はそこになにか途方もない真実が隠されていると考えた。
フランボウの秘密
これらの話を聞いてフランボウは自分の犯した罪を告白するが…・。
ちょっと読みにくいが良く書けている。読みにくい部分は犯罪を持ち出すまでに蘊蓄が長すぎること、解決編がブラウン神父がずばり言い当てるだけで、読者が推理する余地がないこと、細部に渡ったつめが書かれていないことなどであろうか。犯罪の型式も古いがこれは時代の違いと考えればよい。ただこれらの作品が現代の推理小説の元になっていることは間違いなく、その点では非常に興味深い。
010505