ハヤカワ・ミステリ文庫 THE SECRET OF CHIMNEYS 高橋 豊 訳
1925年、名作「アクロイド殺人事件」発表された年に、発表された冒険小説だが、会話全体に英国流のユーモアがあふれており、楽しい作品である。書きぶりは入れ替わりが多く、登場人物がかなり無敵で、ルパンシリーズを読んでいるような感じ。主人公とあわせて、頭は良いが男を愛することなど面倒くさい、自由がいいというレヴェル夫人の性格が面白い。
南アフリカの旅行案内をしていたケイドは、旧友に会い、ヘルツオスロヴァキアの元総理ステイルブテイッチの回想録を、ロンドンの出版社に持参してほしいと頼まれる。ヘルツオスロヴァキアは革命勢力が王夫妻を惨殺して権力を握ったが、また王政復古派がミカエル王子を擁立し、権力をうかがってるヴァルカンの小国で、産業は山賊という。
ケイドは、ロンドンに戻るとヴァージニア・レヴェル夫人を尋ねる。ところが宝石泥棒のキング・ヴィクターからねらわれ、復古派のレッド・ハンド党から襲われ、さらにはレヴェル夫人のケイタラム家の所有するチムニーズ館訪問を妨害する目的だろうか、突然ボーイの死体が発見され、それをケイドが隠すなどのっけから事件の連続。
チムニーズ館には高官たちのほか、王政復古を支援しヘルツオスロヴァキアの石油利権を確保しようとする英米の政商、イギリスのバトル警視、フランス、アメリカからの刑事が陣取っている。そんな中一発の銃声が響きわたり、男が殺されるが、なんとミカエル王子。
持参した回想録は、王家に伝わる宝石の在処を伝えるもの、そのありかはチムニーズ館の中とあってこれも謎を呼ぶ。果たして王子を撃ったのは王制反対派か、政商か、それとも宝石泥棒か。誰が誰に変装して館に紛れ込んでいるのか。疑惑は疑惑をよぶ。
どたばた劇が続くが、実はケイタラム家の家庭教師ブランがキング・ヴィクターで宝石奪取だった。最後は主人公二人が結ばれめでたし、めでたし!
・男はみんな、退屈してほかに何も言うべき事を思いつかないときに、プロポーズするものなのよ。(250P)
・愛はあなたを環境に対して盲目にする麻薬ではありません・・・あなたはそうすることもできるでしょうが、しかし、それは惨めすぎる。・・・・何の取り柄もない男を尊敬する女はいませんよ(263P)
・僕は今でもデモクラシーを信じていますよ。しかし、そうするには、強い手でそれを国民に押しつけなければならない。(336P)
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