創元推理文庫 THE CHINESE ORANGE MYSTERY 井上 勇 訳
ドナルド・カークは出版業を営み、切手や宝石の収集に興味を持っている。彼は口うるさい父と共にチャンセラーホテル22階に住んでいる。
その日事務室に陣取るドナルドの秘書オスボーンは、主人がいないにもかかわらず多くの訪問者があった。博士と喧嘩したデイヴァシー嬢は、控え室でチャイナ橙をひとつ摘んだあと好意をもつ氏を訪問した。見知らぬ男がドナルドを訪問し、不在を告げられると控え室で待つと引っ込んだ。ドナルドの友人マクワゴンは、ドナルドあての手紙を彼に託する。そしてアイリン・リューズ、ジョー・テンプルの美しい女性たち。
7時も近くなってから、やっとクイーンと共にドナルドが帰ってきた。事務室の奧の控え室に入ろうとすると、中から閂がかかっていた。おかしな事もあるものと廊下を回って反対側から入ると、部屋が荒らされ、あの見知らぬ男が服をあべこべに着せられ、火かき棒で頭を割られて無惨に殺されていた。しかも所持品、洋服のタグなど身元を明らかにするものはすべて取り除かれている。誰かがネクタイの無いことに気づいた。気がつくと調度品も本棚が壁にむいているなどすべてあべこべ!
てがかりの乏しい事件だが、父親の援助を得てエラリーが調べるといくつか分かってきた。マクワゴンが印刷ミスのある高価な中国福州切手を買い入れたが、元はドナルドが現在の婚約者で長いこと父と共に中国に滞在していたジョーから手に入れたものだった。ドナルドは、事業不振で金に困っているのだ。一方リューズは、ドナルドの元の女なのだが素性は名うての女詐欺師。マクワゴンの手紙は、ドナルドのリューズとのつきあいへの警告状だったようだ。リューズは、ドナルドから多くの高価な宝石を巻き上げていた。
クイーンはリューズの部屋に忍び込み、ドナルドと鉢合わせ、事情を聞き出した。ドナルドの妹のマーセラが、パリでカリナンなるいかがわしい男と関係したが、こちらでマクワゴンと恋に落ちた。それを聴き知ったリューズが結婚証明書等をカリナンから買い取り、それを種に妹思いのドナルドを強請っていたのだ。すると殺されたのはカリナンとも考えられたが、彼はパリで健在なことが分かった。
父の警視が「もし殺された男が旅行者であったとしたら、どこかに鞄が預けてあるはずだ。」と主張。記憶の良い係のおかげでついにグランドステーションで見つけた。取りにくる男を待ち伏せたが失敗、しかし荷物の中味を見ることが出来た。なんとそれは安物の中国服の着替えだった!
さて読者への挑戦!見知らぬ男殺人の謎を解いてくれ給え!
ネクタイが無く、洋服を反対に着せられていること、荷物の中味等から被害者は中国に渡った伝道師と推定される。彼がドナルドを訪問する意味は出版や宝石ではありえないから特別の切手を売り込みに来たのだろう。すると犯人は伝道師が高価な切手を持っていることを知って、それを狙った!
事務室側の閂が控え室側からかかっていたと言うことは、犯人が、事務所側から入ったと思われたくない、同時に後ろの入り口に行くために見張りの目の光る廊下にでる事を望まなかった。もちろんエラリーの実験によって紐を使って事務所側から控え室の閂をおろすことが可能なことが証明された。
密室になっていない密室問題で、どうして控え室の閂がおろされていたかが鍵になっている。挑戦の段階で、私は中国の切手にからむ強請と考え、ジョーを犯人としたがちがっていたようだ。リューズの強請話はもちろん読者をミスリードするものだが、話を非常に派手に、かつ面白くしている。中国に対する理解は滅茶苦茶だが、お愛嬌というもの。
・中国の最初の切手・・・小さな矩形をしていて橙色一色で印刷してあった。矩形の縁取りの囲いの中には、類型化された、とぐろを巻いた龍がいた。標記価格は五元だった。切手の印刷は粗末なもので・・・・(339P)
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