ダン・ブラウンは1964年、ニューハンプシャー生まれ、若い作家である。作品は2003年3月に上梓されたが、1週目からベストセラ−1位を獲得、以後いまだに1位を譲らない、という。後で気がついたが、日本でも中中らしく、書店の店頭を飾っていた。
さわりを紹介すると・・・・・
ルーブル美術館館長ソニエールが館内で死体となって発見された。その死体は、グランド・ギャラリーでもっとも有名なダ・ヴィンチの素描<ウイトルウイウス的人体図>を模した形をしている。そして死体の回りには10桁の一見意味のなさそうな数字と奇妙な文章のダイイングメッセージ。
フランス司法警察のベズ・ファーシュが捜査を開始する。メッセージに最後に彼の名があったために、来仏していたハーヴァード大学宗教象徴学教授ロバート・ラングトンが呼ばれ、ルーブル美術館に拘束されてしまった。そこに美貌の女性暗号解読官ソフィー・ヌヴーがやってきて、あの数字はフィボナッチ級数だ、などといいながら事件に首を突っ込み、挙句、ロバートと共に逃げ出してしまった。なんと彼女は殺されたソニエールの孫娘で、ダイイングメッセージには彼女にしか分からないところがあったのだ。
美術館を逃げ回るうち、ダイイングメッセージは、やがて二人をダ・ヴィンチのモナ・リザに導く。そこで「おじいちゃん」の彼女に託した発見・・・・。
実は、ダ・ヴィンチはキリスト教の伝統からすると常に歴史学者を悩ませる存在だった。人体構造研究のため、死体を掘り起こし、不老長寿の霊薬を作り、錬金術に凝り、その上同性愛者、モナ・リザは彼自身ではないか、とさえされる。
キリストが布教していたころ、女性は、子宮から命を生み出すゆえに神聖視された。キリストは実は妻がいた。聖書では「マグダラのマリア」の名前で娼婦として記述されている者である。ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を注意してみると、イエスの横にこの「マグダラのマリア」が描かれている。(下巻にこの絵がついており読者はあっと驚く) 彼女はイエスの死後、出産し、その子孫はフランス・メロィンガ朝に続く。なぜ彼はこんな突拍子もない絵をえがいたのか。
三世紀、ローマ帝国のコンスタンテイヌス帝は、キリスト教が勢力を増大していると見ると、在来の異教の象徴や暦や儀式をキリスト教と融合させ、いわば混血の宗教・・・新しいキリスト教を作り上げた。ニケーア会議で、イエスを神の子と位置づけることとした。すでに流布していた膨大な文書の中から都合のよいものを選んで新約聖書を作り上げた。さらに禁じられた福音書を選んだ者はすべて異端とすることにした。
イエスに子がいたとなれば、神たるキリストという概念が壊れ、教会こそが神に近づく唯一の手段という主張も崩れ去る。そこで一部が以前の事実を記した文書を破壊しようとし、子孫を絶やそうとした。一方、シオン教会、あるいはその傘下のテンプル騎士団はこれをなんとしても守りとうそうとした。シオン教会の歴代総長にはダ・ヴィンチやニュートンまで含まれる。ダ・ヴィンチはこの事実を「最後の晩餐」で示したのではないか。
そして今回、狂信的一派オプス・デイがついに動き、シオン教会幹部を抹殺しにかかったが、実はルーブル美術館館長ソニエールは現在のシオン教会総長だったのだ。「おじいちゃん」の意思に導かれて、ルーブル美術館を脱出したロバートとソフィーのシオン教会が密かに隠す聖杯探しの旅が始まる。
彼らを追うオプス・デイ、フランス警察、彼ら二人に危険が迫る。ウエストミンスター寺院に、スコットランドの寺に、再びルーブルに舞台は次々に変わる。しかし秘密文書が次々に投げかける暗号、アナグラム等は容易に解けない・・・・。
全体としてみれば追われる男女二人の記号やメッセージを通しての聖杯探し、活劇としてもなかなか面白いが、この作品をいっそう魅力的にしているのはキリスト教に関する上述したようなペダンテイックな語り、といえようか。「最後の晩餐」のほか「モナリザ」や「岩屋の聖母」などに関する語りは特に面白い。
下巻冒頭近くにある「歴史は常に勝者によって記されるということだ。」「歴史とは、合意の上に成り立つ作り話にほかならない」などの言葉を印象的に感じた。特に処女降誕だの復活だのを疑い深い目で見る非キリスト教徒である私たちには・・・・。
041117