ハヤカワ・ポケット・ミステリ DOVER ONE 川口 正吉 訳
イギリスの片田舎クリードシャーにアーラム・オールド・ホールという10戸たらずの住宅団地があった。80歳を越え、かくしゃくとしているジョン・カウンターは、娘のイヴと暮していたが、お手伝いのジュリエット・ラグが、ある日、突然いなくなった。地元警察からの依頼に、ロンドン警視庁はどうせ駆け落ちかなにかだろうと、鼻つまみのドーヴァー警部と若き部長刑事マグレガーを派遣する。
ジュリエットは100キロを越えるでぶで、その上、身持ちが悪い。ジョンは公然と愛人だった、というし、アーラム・オールド・ホールの所有者の息子と関係し、その母親を強請っていたし、婦人用下着セールスマンピレーとも関係、麻薬中毒青年ボゴレポフともあやしい。身代金を要求する手紙が、ロンドンから、ジョンのもとにとどき、金の受け渡し場所を市場の婦人便所と指定してきたため、おおがかりな捜査を行うが空振り。ドーヴァーの無能ぶりに非難が集中する。
しかし、誰も行っていないロンドンから脅迫状をだす方法をつきとめ、さらにいなくなった当日、ラグがマニキュアの色を赤から緑に変えたことに注目。脅迫状についていた指紋が死後のものだったことから、殺されていると確信。ボゴレポフが、緑のマニキュアに言及し、麻薬受渡日が遅れても落ち着いており、ラグにそれを知らされていた事実をつかみ、会食中の彼と女流探検家ホッポルトを逮捕する。犯行方法は弓と矢で、死体はバラバラにして冷凍庫に入れられていた。
動機は、情事を種に強請られて、と言うことだが、犯人は人肉試食の経験のあるボンデイ管理人とホッポルトの犯行ではないかと、との投書が来て、当局は大慌てする。
優等生的推理小説で、ドーヴァー主任警部のはためちゃぶりは必ずしも強調されていない。慈善団体宛に、被害者の衣服と一緒に、切手を貼った封筒を送ると、受け取った方は間違えて入れたと解釈し投函してくれる、というやり口は、「殺しの双曲線」(西村京太郎)でも同じ様な手口が見られる。マニキュアの色の変化が事件当日に行われ、それを知っていたかどうかというアリバイ崩しは「心理試験」(江戸川乱歩)を思い出させた。金の受け渡し場所を女便所にしたため発生する混乱を面白く描いた下りは、なんとなくこの作者の男性観のようなものを偲ばせ、面白い。弓と矢による殺人はかなり珍しい殺人方法で、ここから発生する遺留品について言及した方が良かったかもしれない。同様にカニバリズムについての議論も中途半端と言う感じがする。ところで指紋は生前のものと死後のものと簡単に区別出来るのだろうか、よく分からない。
ユーモアのある書き方が面白い。おばあさんが陸軍大佐と聞いて「救世軍の・・・?」と聞くくだり、墓地であの子は男と横になる、地面の下で・・・いや、間違い!などというくだりは吹き出してしまった。人物の描写も丁寧で参考になった。
・英国の1957年の殺人罪法・・・弓矢による殺人はのぞかれるなど限定される。(236p)