エッジウエア卿の死      アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 LORD EDGWARE DIES 福島 正実 訳

 非常にエゴイストな妻が、金と地位のある男と再婚するために、夫を殺すというクリステイにしては比較的めずらしいプロットである。
 その夜、エッジウエア男爵夫人ジェーン、ポアロ、ヘーステイングス等が見守る中でおこなわれた、カーロッタ・アダムスの物まねは、抜群に面白かった。それがはねた後、ジェーンがポアロに「離婚したいので男爵を説得して欲しい。」との依頼を持ち込んだ。彼女は離婚してマートン侯爵と結婚したいと言うのだ。男爵は、前夫人とも離婚でもめたのだが、ポアロが相談に行くと「六ヶ月前、承知したと手紙を書いたはずだが・・・・。」との返事。
 ところが数日後の夜、その男爵が自室でペンナイフで一突きにされ殺された。その夜ジェーンが彼の元を訪れていたため、彼女が疑われるが、彼女はその時あるパーテイに出席していた。それでは男爵邸を訪問したのは変装したカーロッタと考えた瞬間、彼女もヴェロナールを飲んで死んでしまった。
 ポアロは、なぜエッジウエア卿は離婚問題について意志をひるがえしたか、なぜ、その手紙はジェーンに届かなかったか、など五つの疑問を提起し、次第に問題を絞り込んで行く。金に困っており、犯行時刻に従妹と現場近くに現れた甥のロナルド・マーシュが、一時疑われるが、彼もまた殺されてしまう。引きちぎられた謎の手紙、Dよりと書かれた宝石の小箱などが事件を複雑に見せる。
 実はエッジウエア侯爵の変態ぶりに愛想を尽かした犯人が、パーテイにはカーロッタを変装させて代役にたて、自宅に戻り、堂々と男爵を殺す、次いで代役に立ったカーロッタを殺す、パーテイに出席していたのが犯人でないことに気づいたマーシュを殺したものだった。最後にポアロ宛に書かれた犯人の独善的な手紙が面白く、気が聞いている。

 相変わらず、作者一流の心理学論議が随所に現れていて面白い。ただ、秘書のキャロルの証言を通じ、読者に男爵邸に戻った女性がカーロッタだったとの印象を与えているが、筆力と言えばそれまでだがインチキ臭い。

・心理学への興味なしに犯罪に興味を持つことは出来ないよ。犯罪というのは、単なる殺しの行為じゃないんだ。殺人の行為の背後に専門家にしか見えないものが隠されているんだ。(19P)
・僕は彼女(キャロル)が、うそつきではなくて、無意識に不正確なことを主張する正直組の一人だと結論したのさ。(166P)
・人は決して他人から習い覚えるべきではない。おのおのの個人は、その個性をこそ限界点まで伸張させてしかるべきで、決して他人のまねをなすべきではないのだよ。(170P)

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