フランクフルトへの乗客    アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 PASSENGER TO FRANKFURT  永井 淳 訳


 まず、80歳の高齢で、ネオナチズムという現代的テーマを捕らえ、新分野を開拓しようとした女史の精神に敬意を表する。またまえがきにある作品の作り方は大変参考になった。
 人生に退屈していた外交官スタッフォード・ナイは、フランクフルト空港で見知らぬ美女から「私はロンドンに行かないと殺される。あなたのマントとパスポートを貸してくれませんか。あなたになりすまして行きます。」との申し出を受け、受諾してしまう。
 そして叔母の主宰するパーテイで再び彼女に再開、とんでもない話を聞かされる。現在資金力にものを言わせ、武器を購入し、学生に騒乱を起こさせるなどして、世界支配に乗り出そうとしている勢力がある。あなたにその調査委員会のメンバーになり、彼らの実態をつかんで欲しいと依頼される。
 その勢力はネオ・ナチのことで、世界の武器、麻薬、財政、科学、そして若者を支配しようとしていた。暴力の魅力に捕らえられた若者が、中南米を、ロシアを、フランスを、イギリスを支配し、アーリア人支配の世界を作ろうとしていた。
 そしてこれに対抗するためにある物理学者の研究している性質穏和化剤・・・その性質が明らかになり、委員会が、使用を決定しようとしたとき、中の裏切り者がベールをはいだ・・・。

 出だしの見知らぬ美女との邂逅、ネオ・ナチが支配するパーテイへの参加、世界の危機を伝える各種情報、ヒトラーが精神病院の患者と入れ替わり南米に脱出、子をなしたという話等大仰だが、その割には結末はあっけない。今から思うとちょっと薄味の感じではあるが、書かれた時代を考えると大した作品と言うことが出来ようか・・・・。

・政治家は動機さえ正しければうそをついても構わないと考えている・・・(101P)
・ペニシリンやサルファ剤や心臓移植・・・良いところだらけの特効薬のように思われるものにも、やがてマイナスの面が現れて、そんなものはなければ良かった、発見されなければ良かったと考えられるようになる・・・(294P)
・しかしいったん暴力のための暴力の味を占めてしまった人々は、何時までたっても大人になれない。彼らは発達が遅れた段階で停止してしまい、生涯その状態にとどまるのである。(300P)

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