フロスト日和        R・D・ウイングフィールド


創元推理文庫  A TOUCH OF FROST    芹沢 恵 訳

 マイケル・Z・リューインの「夜勤刑事」など三部作は、従来の警察物と異なり、実際の警察現場のあり方を考え、次から次へといろいろな事件が起こってくる。そして主人公のリー・ロイ・パウダーはマルチタスクでそれこそ七面六脾の活躍をするのだが、この作品も同様の書きぶり、主人公はフロスト警部になっている。しかし警部のキャラクターは推理力は優れているもののカタ破りで、何だかジョイス・ポーターのロンドン警視庁始まって以来の最低警部、ドーヴァー警部を思わせる。ワトソン役はドーヴァー警部の場合、優秀なマグレガー刑事だったが、今回は、上司に鉄拳をお見舞いして降格された上、飛ばされてきたウエブスター巡査。
 設定はロンドン郊外120キロのところにあるデントンという架空の都市と言うことになっているが、それにしても信じられないみたいに物騒な事件の連発する町である!わずか四日間の間に扱う事件を列挙してみると
(1)浮浪者ベニー・コーニッシュのトイレでの撲殺殺人
(2)ヒックマン老人ひき逃げ事件
(3)実業家ドースン氏令嬢行方不明事件
(4)ストリッパーポーラ・グレイが夜の公園で痴漢に襲われ大けがをする事件
(5)金貸しリルケリー婆さんのソブリン金貨盗難事件
(6)「ココナツ・グローブ」に強盗が押し入り、5000ドルが奪われた事件
(7)女癖の悪い警官のシェルビーが射殺される事件
(8)(4)と同様に看護婦が襲われる事件
 警察ものをストーリーにしようとすると、必ずしもすべての事件が関わり合っているわけではないから散文的になりがちだ。それを避けるためか、なんとこの小説ではこれだけ沢山の事件が全部つながっているのだ。(3)の事件を追って行くと、令嬢はなかなかのすれっからしで、家出してココナッツ・グローブでストリッパーをやっていた、(2)のひき逃げ事件で疑われた有力者の息子は別のストリッパーと一夜を共にしており、アリバイがあったが、実はそのストリッパーが車を拝借して起こした事件だった、ココナッツ・グローブで(6)の事件が起きたが、これはその息子が犯人だったという具合。
主題は(4)と(8)の連続婦女暴行魔事件。いきなりビニールの袋をかぶせて殴りつけると言う物で被害者が顔を見ていないから犯人の特定のしようがない。美人のスー巡査に頼んで囮捜査まで行うが失敗。しかしスー巡査が襲われた頃、泥棒らしい男が庭に侵入したとの報をうけ捜査をすると、隣家の男にたどり着く。遺留品の鍵が一致し、逮捕。
 この事件に関係があるものと思われた(7)の事件ではこそ泥のユースタスが嫌疑を掛けられ、人質をとって籠城してしまう。フロストが説得に向かうが、銃を出した途端、狙撃の用意をしていた別の巡査が撃ち殺してしまう。実はこの巡査が自分の妻を寝取られたために起こした犯行だったのだ。
 物語全体はこうした事件の捜査・解決が半分、後の半分はフロストのくだらないジョークと上司を上司とも思わぬ正義感ぶりとルール無視の滅茶苦茶な行動から成り立つ。例をあげると
・「P.M.・・・十時?まさか、あのサッチャーの婆さんが、我が国の首相を訪ねてくるわけじゃないよな?」「検屍解剖(POST MORTUM)のPMですよ。」(232P)
・「切り裂きジャックとクリッペン医師だ」フロストは郵便受けの差し込み口に怒鳴った。「気取ってないで、リル、さっさと開けてくれ。どちら様、なんて聞くまでもないだろう?おれたちの車が止まったときから、外を覗いていたくせに。カーテンの隙間からあんたの眼ん玉が見えたよ。」(238P)

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