墓場への切符 ローレンス・ブロック


二見文庫  A TICKET TO THE BONYARD 田口 俊樹 訳

昔のなじみの娼婦エレインと私の元に、新聞の切り抜きが、宛名のない封筒を使って、送られてきた。フィリップ・スターヴァントが、三人の子供と妻を包丁で刺し殺し、ショットガンで自分の頭を吹き飛ばしたと言う記事だ。友人が送ってきたのでないとすれば・・・・だれかが5人を殺し、二人に警告として送ってきた。狡獪な凶悪犯、ジェイムズ・レオ・モットリー・・・・あいつにちがいない。
十二年前、彼は、ほとんどが婦女暴行容疑で過去6回ないし7回の逮捕歴がありながら、有罪になったことは一度もなかった。そんな彼が、エレインを辱めた時、私は彼を倒し、始めて有罪にしてやった。判決を受けてモットリーは言った。「借りは必ず返すからな。おまえとおまえの女全部にな、スカダー。おまえとの勝負はまだついていない。」
フィリップ・スターヴァントは、その裁判で訴状を書いた男である。私は昔の記憶、エレインの話等をもとに似顔絵を作り、モットリーの居場所を突き止めようとする。ところがその間にも知り合いのトニが墜落死し、スカダーにどこまでも復讐を誓うメッセージがエレイン経由で送られる。情報を提供するというオカマの罠にはまり、モットリーに痛めつけられ散々な目にあう。しかし警察は「お前の言うことには証拠がない。しかもモットリーの弁護士から安全を脅かされている、と苦情が入っている。」と取り合わない。
さらにスカダーの性をもつが全く知らぬ女性が、殺されるなど彼の圧力は次第に高まってくる。誰が私の代わりに次は襲われる、エレインは大丈夫か、私は目に見えぬ敵に怯え、いいようもなくつらい立場だ。態度の悪い若者を半殺しにしてうさを晴らしたりしている。しかしある時第二の情報提供者が現れ、彼の情婦の住居が分かった。
ついにモットリーは、ついに若い見習い警官を惨殺し、その身分証明書を用いてエレインのアパートに入り込み、瀕死の重傷を負わせた。情婦宅でじっと息を潜めて待っていたスカダーと最後の対決が始まった・・・。
探偵の登場する巻き込まれ型ストーリーと言うところだろうか。主人公の悩み、酒との戦い、モットリーの残酷さ等、非常によく書けており、文章も話も明快だから読後感が非常によろしい。小説中に適当に挿入された金言もなかなか気が利いている。マルクス・アウレリウスからの引用も気が利いている。
例333P
・わたしは床上手だっただけじゃなく、不特定多数の男と関係しても心を蝕まれることなく生きて行く術に長けていた。(38P)
・我々は皆年老いて己の戯画になる、なんてね。(139P)
・人生は考える者には喜劇であり、感じる者には悲劇である、とだれかが言うのを聞いたことがある。私は人生は喜劇であると同時に悲劇であるように思われた。(211P)
・ラジカセの音が大きすぎると若者を半殺しにした話(325P)
・メタドン治療・・・ヘロイン中毒の治療法のひとつ(342P)
・クラックがもたらす社会問題の解決・・・だから政府になっちまえばいいのさ。アメリカがラテン・アメリカを併合しちまえばいいんだよ。(349P)
・脾臓というのはなくても生きていけるんです。(393P)
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