鳩の中の猫    アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 CAT AMONG THE PIGEONS 橋本 福夫訳

 アガサ・クリステイはこんな小説も書いたのかとびっくりした。しゃれたスパイ小説という趣である。こういう小説を読むと彼女のつねに変わらぬチャレンジングな精神に感心し、楽しくなると言うものである。
 授業料は高いが、選ばれた生徒に最高の教育を与えることで定評のあるメドウバンク女子校。ここに中東の小国ラマット国の王女シャイスタがいた。頭の程度はともかく十五歳にしては成熟した女の魅力をそなえ、元気いっぱい。
ところがそれより2ヶ月ほど前、ラマット国では革命が起こり、国王アリー・ユースフとローリンソンは国外脱出をよぎなくされ、莫大な財産を宝石に換え、持ちだそうと計画する。頼まれたローリンソンは英国に戻るシャイスタの友人ジェニファの荷物の中に紛れ込ます。
 学校が始まり、なにやら怪しげな雰囲気の中、嫌われ者の体操教師スプリンガー女史が用具室で射殺体となって発見される。当局は事件をうやむやにすませたかったが、妙なことが起こる。シャイスタの叔母を名乗った何者かが、シャイスタのテニスラケットを持ち去る。それは体にあわぬからと、ジュリアの物と変えたばかりだった。
 そんな中今度は次期校長候補のヴァンシッタート女史が同じ用具室で撲殺死体となって発見された上、シャイスタ嬢が蒸発してしまった。そして身代金要求の連絡が・・・・。
 ジュリアは、あのテニスラケットが実は自分のものをねらったのだと気づき、根元の部分からダイヤモンドを発見、寮を抜け出して、ロンドンのポアロに相談に行く。学校ではフランス語の先生が犯人に気づき、強請ろうとするが失敗、殺される。最後にポアロがなぞ解きをし、国際的スパイの一人が宝石をねらって学校に潜入している、そのスパイとは・・・・と指摘する。

 実はあのシャイスタ王女は偽者だった、というところはあっと言わせる。また伝統を重んじようとするがそれ以上ではないヴァンシタード女史、長いこと仕えているから、校長になれるだろうと考えるチャドウイック女史とともに、校長バルストロード女史の悩みがよく書かれている。後継者に自分とは行き方が違うが、能力があり、新しい道を開いてゆこうとするアイリーン・リッチを選ぶところは一般社会でのあるべき姿にも通じる。

・私は冒険を冒した。多くの人を呆れさせもした。おどしもし、すかしもして、外の学校の様式に従うことを拒否した。今後もこの学校がその方針に従ってくれることを、私は望んでいるのではないか?誰かがこの学校に新たな生命を吹き込んでくれることを。(103p)
・あの人はただの体操教師でした。ああ!これは誰に対してにせよ、ひどい言い方ですわね!ただこれだけの人間とか、あれだけの人間だなんて!(147p)
・人間は過去にしがみついているわけにはいかないものよ。伝統も、ある程度までは、いいけど、程度が過ぎてはいけないわ。学校は今日の子供たちのものよ。(294p)

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