ヒッコリー・ロードの殺人   アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 HICKORY DICKORY DOCK 高橋 豊 訳

 学生寮で夜会靴の片方、ダイヤモンドの指輪、聴診器、電球、絹のスカーフ、リュックサック、硼酸の粉末などおよそ脈絡のない物が盗まれ、女生徒のノートがインクで汚される。たまたま秘書がその寮の管理人ハバード夫人の妹であったために、ポアロが乗り出す。
 心理学専攻のコリンを恋するシーリアが一部の盗みを白状したことで、事件は一件落着に見えたが、そうは行かなかった。彼女はモルヒネを服用して死んだが、遺書に使われたインクと万年筆に入っていたインクの色が違っていたため、他殺と断定された。
 ロンドン警視庁から派遣されたシャープ警部がひとつひとつ事件を詰めて行こうとするのに対し、ポアロは全体を流れる何かをつかもうと懸命になる。偽パスポートを持っている者がいるという噂、異様に安いリュックサック、そしてとうとう尻尾をつかんだ。服飾品バイヤーヴァレリのスープ皿から発見されたダイヤモンドは、いつの間にかジルコンにすりかわっていた。そしてアルコール中毒になっていた寮の経営者ニコレテイス夫人の死。
 一方皮肉屋ナイジェルは、友人と三種類の人に分からぬ方法で毒物を集められるかどうかをかけていた。その第三の方法は医者になりすまし薬局に忍び込むこと、補聴器はそのために盗まれたのだ。この盗まれた物の役割がそれぞれ違うところが面白い。
 ポアロはこれらの事実を結ぶ鎖をじっと考えて行く。
 真相は、ヴァレリと皮肉屋の学生ナイジェル・チャプマンが組んだ宝石やヘロインの密輸。彼らは、手先に、仕掛けをしたリュックを使う学生を利用した。しかし真相を知りすぎたシーリア、ニコレテイス夫人、さらにはナイジェルを恋するパトリシアまでも殺すことになった。

・会話だよ。会話を重ねることだ。ぼくがめぐりあった殺人犯人はすべて話好きだった。ぼくの経験では、がんとして無口な男はめったに犯罪を犯さない。(112P)
・三つの方法・・・・第一は医者の後をつけて盗む。第二の方法は処方箋を書いてもらい、医者の偽のサインを書き足す。(146P)
・睡眠薬を飲み過ぎたのですよ。メデイナルだったと思いますが。(283P)

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