ひらいたトランプ  アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 CARDS ON THE TABLE  加島 祥造 訳

 「生きた犯罪コレクションをお見せしましょう。」いかにも悪人のシャイタナ氏の提案にポアロは動かされ、バトル刑事等と参加し、ブリッジ大会を催すことになる。テーブルのプレーヤーは男心をそそる頼りなげなミズ・メレデエイス、ブリッジのうまいロリマー夫人、探検家で世界を歩いたデスパード少佐、そして医師のロバーツ、それを暖炉の側でテーブル越にシャイタナ氏が見つめていた。ところがゲームが終わり、レイス大佐が別れをつげようと近づくとシャイタナ氏は、睡眠薬を飲まされた上刺し殺されていた!

 捜査には別室で4人にはブリッジをしていた4人が当たることになった。ポアロ、バトル警視、レイス大佐、そして探偵作家のオリヴァ夫人。容疑者にはそれぞれ殺人の前歴があった。デスパード少佐は、アマゾンで同行した学者を撃ち殺したし、ロバーツは浮気の女の亭主をようと言う病気にかこつけて殺していた。ミズ・メレデイスはうるさい主人に当たる夫人を毒殺していたし、ロリマー夫人はかって夫を階段から突き落として殺した。そしてどうやらシャイタナ氏はそれらを強請の種にしていた。
 事件はロリマー夫人が自分が殺したとするが、メレデイスをかばっていたものだった。そして彼女の死。しかもメレデイスはポアロの示した19足の靴下のトリックにかかり、盗癖があることを暴露、刺し殺すところを見たと証言したものも現れて一件落着かと思われた。ポアロは一方で容疑者に室内にあった家具を聞いたり、ゲームの進行を再現させるなどの心理テストとおこない犯人に迫ろうとする。その結果部屋の調度品等を事細かに覚えており、グランドスラムで皆がゲームに夢中になっていたとき、ダミーになっていたロバーツが犯人であることは歴然、と考えた。そこで、ロリマー夫人殺害場面を見た男がいると教会の窓拭き男を引っぱり出して証言させる・・・。

 ブリッジのゲーム中の殺人と言うことで非常に面白い。ヴァン・ダインの「カナリア殺人事件」ではファイロ・ヴァンスが容疑者たちとポーカーをやって犯人を推定する下りがあるが、この作品の方がゲームの進行と犯罪の関連が深く面白いと思った。ただ、ブリッジに夢中になって、すぐ近くの元気のいい男がぶすりとやられて、誰も気づかない、なんて信じられる?血は出なかったの?人間はチーズで出来ているわけじゃないんだよ。
 また抜き書きの中で最初のものはクリステイの殺人感を示しているように思う。かってチャプリンが「一人殺せば殺人者、百万人殺せば英雄」と殺人罪で絞首刑になろうとする男に言わせているがその場面と好一対だ。

・戦争では、確かに、個人的な判断を行使して殺人するのではありません。しかしだからこそ戦争は最も危険なものなのです。戦争では人間は相手を殺すことに正当な理由をつけられます。このように、人間が他人の生死を左右できるという考えに、一度でもとりつかれた者は、最も危険な殺人犯人になりかかっているのです・・・利益のためでなく・・・・思想のために人を殺す・・・・こんな人ははなはだ傲慢な殺人犯人です。そう言う人は全能の神の機能を奪い取ったことになります(208P)
・見込み殺人・・・成功するかもしれんし、しないかもしれん。(262P)
・催眠剤・・・バルビツル酸剤=バルビタール、ヴェロナール、ジタール、アドルム(291P)
・麻酔剤は、静脈内に多量に注射されると、即座に意識を失います。ヴェロナールとかバルビツル酸剤の催眠剤を与えた後で使用することは危険ですね。(318P)

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