骨と沈黙           レジナルド・ヒル


ハヤカワ・ミステリ BONES AND SILENCE 秋津 知子 訳

 酔って帰宅したダルジール警視は、裏手の家の寝室に明かりがともりカーテンが開かれたと思うと、裸の女があらわれてびっくりした。そして男が動き、銃の破裂音。あわてて駆けつけると、隣家の室内には銃を持った請負建設業者のフィリップ・スウエイン、顧客のウオーターソン、そして頭を銃で撃ち抜いて倒れているフィリップの妻のゲイル・スウエイン。フィリップは「彼女は自殺した。」と主張し、周囲の状況もそれを覆す物はない。しかしダルジールはこれは殺人だ、と自信満々。
 一方バスコー主任警部は、次々と警察に送られてくる自殺をほのめかすダルジールあての手紙の差出人を捜すよう命ぜられていた。内容からして何かゲイル夫人の死に関係がありそうだが・・・。
 ダルジールが執拗に調べる内に、ウオーターソンが行方不明になり、少し前にフィリップの兄が納屋で自殺していたこと、ゲイルはフィリップに実家のアメリカで建設業を営むデルガド社に勤めるよう頼んでいたがフィリップが断り、二人の中が冷えていたこと等が分かった。さらにフィリップの元を去った弁護士の証言から、会社が予想以上に経営状態が苦しく、ゲイルはそれを助けることを拒否していたことも分かった。そしてウオーターソンの愛人ベヴァリーや共同経営者アーニー・ストリンガーの娘婿のトニーの失踪。フィリップは限りなく灰色なのだが理由をつけては言い抜ける。
 フィリップは遺産が入り、新しい町づくりに励む。その建設現場でアーニーが亡くなった。ダルジールがひらめき駐車場を調べるとウオーターソン、トニーそしてゲイルの死体が発掘される。
 しかしそれでもフィリップは「ウオーターソンと関係のあった妻を殺し土中に埋めた。しかしウオーターソンに借金返済を求められた私が払えないと見ると、彼が妻に似ている愛人を殺し、妻の身代わりに立てて遺産を相続しようと提案し、実行にうつした。トニーの娘婿は、エイズだったので娘の将来を思ったトニーが殺した。アーニーの死はもちろん事故。」などと死人にすべて罪を転嫁した証言。
 ダルジールはこれをいかにして破るか。納屋に入れた死体にかかった蝙蝠の小便、血痕・・・バスコー主任警部と発見した小さな証拠が犯人を追いつめる。事件が解決してダルジールが聖史劇の主人公を演じたとき、あの謎の手紙の差出人が偶然に発覚する。あれは恋文の一種だった・・・。

「疑わしきは罰せず」と言う言葉があるが、こと犯罪では大体は常識的に疑わしいはやっぱり犯人。頑固で一徹、骨太なダルジール警視の人柄と捜査ぶりが魅力。次の言は強烈。
・ダルジールは死刑の反対者ではなかったが、裁くものたちを信頼してはいなかった。絞首刑も結構、と彼は言うだろう、裁判官もまた自分の犯した過ちで絞首刑になるならば。だが、万一これが一種の隠れたリベラリズムと受け取られては困るので言っておくが、彼はまた、犯罪者どもを街頭に戻した責任者は、彼らがこの先、社会に大して行うあらゆる掠奪を個人的に賠償すべきだと主張していた。(403P)
いいまわしがかなり難しく、イギリス流の洒落や引用も非常に多く、訳者が丁寧に註をつけているにも関わらず今一つ理解できなかったところもある。私の知識不足と認識。
この作品は、分類するならアリバイ崩しにはいるのだろう。状況が変わるたびに自分の都合の良いように自供内容を変えて行くフィリップのやり方は、実際にも良くある被疑者の手口ではないかと思う。どのような形で突き破るか、実際の捜査の難しいところなのだろうが、それ故に一つの推理小説の定型ともなりうると思う。
余談・・・この作品はダルジール警視、人気作家P.D.ジェイムズはダルグリッシュ警視長、間違えそう。

「洒落た言い方」例
・犯罪操作部のある階まで来たとき、手負いのマストドンのあげる叫び声が聞こえた。熟練を積んだ彼の耳は、その根底にある感情と激怒を識別した。通常ならこういう場合は怒りの対象が何か分かるまで戸棚の中に鍵をかけて閉じこもるに限る。だが、彼も今回ばかりは安全だと感じて、自分の好奇心を満たすことにした。(180P)
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