角川文庫 PETER'S PENSE 篠原 慎 訳
IRAは、法王庁広報担当官として深く潜入したマクブライトを中心に、ヴァチカン大聖堂の秘密の地下道から図書室に忍び入り、秘密の財宝を盗み出させようとした。しかし、思いもかけぬ落盤事故が発生、そして一味は財宝の代わりに、たまたま遭遇した法王マルチン六世を誘拐してしまった。やがて千五百万マルクの身代金要求が法王庁につきつけられ、ヴァチカンは上を下への大騒ぎ。
しかもここにかってユダヤ人を隠してナチに捕らえられ、軍事裁判にかけられた時、法王の裏切りにより父を殺されたケスラーが法王暗殺をねらってうごめいていた。
通常の話はここで善と悪の対決になるわけだが、この小説では捕らえた側のとまどいが面白く描かれている。「法王様をお返しして・・・」と主張する、マクブライトの恋人、ルチアーナ、一味の中で主導権を握ろうとする凶悪なスミス、そして武器を取らぬと誓い、次第に法王に説得されてゆくマクブライト、非情なケスラー等々。そしてその動きの中に、欧米人なら誰でもが持つであろうキリスト教に対する思いが交錯する。
最後はマクブライトに助けられて法王が戻り、そして彼自身の罪は法王がうまくとえいなしてしまう、という結末もなかなかである。
テーマの選択が素晴らしいし、話の中身も面白く、非常に優れた作品である。
・法王がいなくなっても、やつらまるっきり平気じゃないか。・・・・世の中はこれだから始末が悪いんだよな。世界の半分は後の半分がどうなろうと平気なんだから。(189P)
・ユダヤ人?なんでまた?キリスト教会がやつ等にどういう借りがあるというんだ。(2310P)
・慈悲の心を欠いた為に下される罪は、いつになったら終わりを告げるのだろう。(306P)
・しかし人間の歴史を冷静に眺めたら、平和がむしろ異常なのだ、例外なのだという事が分かるはずだ。人間は有らん限りの努力をして地獄への道を進むのだ。(310P)
・あるユダヤ人のラビは、神が人間に自由な意志を与えた以上、他人がそれを乱用しても文句は言えないのだと言ったよ。(410P)