新潮文庫
太平洋戦争末期、日本はソ連を通じて講和を謀ろうとしていた。東京では一時は拘束されかかった、高木、山脇を中心に和平への模索が始まる。
しかしスウエーデンの大和田武官は重大な情報を得、王室等と協議した結果日本に以下を伝える事にした。(1)ソ連は、ヤルタ会談で、ドイツ降伏後三ヶ月を目処に参戦する事を約束(2)米国は原子爆弾の実験に成功(3)スウエーデン王室は和平仲介の用意あり。
大和田は、自分のところが危険である為、スイス経由でこの情報を流そうと、国際浪人森四郎、ポーランド人スパイコワレスキを送る。しかし、スイスにも米国CIAの手が伸びていたり、発覚しそうになり米兵を殺したりで、二人はモスクワ経由で日本に行こうとする。そしてモスクワでの亡命歌手小川芳子との出合い・・・・。極東に向けて慰問団の一員として向かった。しかし満州との国境を越えるときに被弾、コワレスキーは他界する。
森と小川が日本についたとき広島に原子爆弾が投下された。日本はようやくポツダム宣言を受け入れるかいなかを真剣に検討しはじめた。
以上があらすじだが、この作品は「ベルリン飛行指令」「エトロフ発緊急電」につづく「第二次大戦秘話三部作」の完結編として書かれたとのことである。そしてこの作品では「祖国」とは何か、をメインテーマにすえて書かれているように見える。
自分は日本から裏切られ、無国籍者を名乗り、大和田夫人の指輪一つでスイス行きを考え、小川芳子に出合って感激し、最後に憲兵を芳子がいなければしゃべらないと困らせる森。重要な情報が流されながら、いつも握り潰そうとする軍の愛国主義者と称する中間管理職。原子爆弾を落とされてもまだ本土決戦を主張する軍首脳。そして戦火に逃げ惑う一般大衆。彼らそれぞれにとって祖国とはいったい何なのだろうか。
・対英米開戦にあたっての宣戦の詔勅には、国際法を遵守して、という意味の一節がぬけているんだ。(上156P)
・がき大将にいじめられた僕は、別の広場へ移った。そうやって、自分に居心地のいい広場、気持ちのいい仲間だけを探しているうちに、もう何処にも、移ってゆく広場などない事に気づいた。・・・僕は広場を捨てるんじゃなくて、そのがき大将にはっきりだめだという事が必要だったんだ。(上157P)
・講和の条件で・・・・連合国側が重視していない点は、引き続き確保が可能だ。(176P)
・都合の悪い情報は屑籠へ・・・・赤信号で人はブレーキを踏むよりも、アクセルを踏む方を選ぶものだよ。(上272P)
・手のひらで、相手の鼻を下から思い切り突き上げるんだ。鼻骨が脳にめり込んで、相手は即死する。(下74P)
・けっきょく、祖国とは、一人の女という事なのか。(下234P)
・敵は幾万ありとても、おいてけぼりにすればよい・・・・(下367P)
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