「カブト虫殺人事件」 ヴァン・ダイン

THE SCARAB MUDERE CASE 創元推理文庫 井上勇訳

二十番街にある古代エジプト博物館内で、慈善家で美術の愛好家カイル氏の死体が発見された。エジプトの黄泉の神アスビス神にひれふすように横たわる死体のそばには、2フィートほどの黒い閃緑岩でできた復讐の神サフメット神像が横たわる。像はどうやら壁際の棚から落ちたらしく、それにあたってカイル氏はなくなったらしい。

博物館と壁一つ隔てて館長で、カイル氏から財政援助を受けながら、古代エジプト王朝の発掘調査を行っているブリス博士が住んでいた。そこには博士の美貌のエジプト人妻メリイト・アメン、家僕でメリイト・アメンを大切に思うエジプト人ハニなどが住む。そのほかにカイル氏の甥で副館長を勤める若いソルヴィター、エジプト探検の技術専門家スカーレットなどが登場する。

死体は余りにも明白すぎるほどブリス博士の犯行を示唆していた。棚にはサフメット神像が落下しやすいよう細工がしてあり、それには博士の指紋だけがついてた。そばに落ちていたスカラベのスカーフ・ピンも、落ちやすいように細工したと見られる黄色い鉛筆も博士のものだった。血の海の中の足跡は博士のスリッパの底に一致した。博士の犯行時刻、博士は記憶がないと証言し、事実博士の飲んだコーヒー茶碗からはあへんが検出されたがそのあへんは博士の手の届く範囲になった。

マーカム検事はすぐに博士を逮捕しようとする。しかしファイロ・ヴァンスはなぜか反対する。余りにも証拠がそろいすぎている!博士をすぐにも逮捕すれば犯人の思う壺になるのではないか、何か裏にある!地道に人間関係を追及し、わなを避けることによって犯人に次の手を打たせようと、ファイロ・ヴァンスは慎重に待つ・・・・。

こうして話が展開する間、読者は著者のエジプトに関する薀蓄を傾けた講義をたっぷりと聞かされることになる。マーカス検事同様、このペダントリーに抗議を申し込みたくなるかもしれないが、作品の魅力の半分はこの饒舌にある。著者は大学で学んだベースに加え、執筆に当たって専門的資料を相当にあさって造詣を深めたようだ。