煙で描いた肖像画   ビル・バリンジャー

創元推理文庫 

バリンジャーの作品は今までに「歯と爪」「消された時間」を読んだ事がある。いづれも凝った作品で、前者は罪体のない犯罪をカットバックの手法で取り扱っており、後者は叙述トリックを使った作品である。この作品もなかなか凝っている。

・集金代行を行うダニー・エイブリルは、年老いた業者クラレンス・ムーンの会社を買い取り、彼の残した資料をチェックした。中から出てきた新聞記事の写真は、10年前に出会った美しい、大いに気をひかれた少女だった。名はクラッシー・アルマーニスキーと分かった。借金は何者かによって一括で返されていた。今どうしているだろう。好奇心に変わり、彼はわずかな手がかりを求めて彼女の足取りをたどり始める。

・少女クラッシーは美人コンテストで優勝するために、地元新聞社のマイク・マノーラとねんごろになった。しかし父親のシーザーも彼女に興味を示していた。めでたく優勝。父と子が彼女をめぐって争うなか、彼女は賞金と数々の賞品を手にして逐電した!

以下、ダニーの調査とクラッシーの行動が交互に記述され、物語が進展してゆく。この辺の書き方が非常にうまい。

・ダニーはクラッシーがキャサリン・アンドリュースと名前を変え、ラリー・バッカムという若いカメラマンと婚約していたが、その後分かれ、今度はカレン・アリスンと名前を変え、秘書養成学校に通っていたことを突き止めた。

・ラリーと恋仲になったクラッシーは結婚の約束をし、新居のためにと偽って家具などを買い、それを売り払って自分の秘書養成所の授業料を払い、ドレス等を買い、最後には自分名義のクレジットカードを作らせ、住居まで確保した上また逐電した。

・ダニーはカレン・アリスンが有名保険会社の副社長コリンズの秘書に抜擢されたが、数年勤めた後出て行ったことを突き止めた。彼女は今度はキャンデイス・オーステインと名前を変えたらしい。

・秘書養成学の推薦書で有名保険会社に就職したカレンは副社長コリンズの秘書になった。シニア・コピーライターのテイム・オバニオンと恋仲になった。しかし、カレンは、偶然を利用して妻子あるコリンズに自分と関係を持ったように見せかけることに成功、愛人となり、テイムとは次第に疎遠になってゆく。しかしコリンズに家庭を捨てる気がないと知ると多額の手切れ金とアパートを取り、再び姿を消した。

やがてダニーと幾度も名前を変え、富豪夫人になった悪女クラッシーの軌跡が交錯する。さてそれがもたらすものは・・・・。

・ダニーの調査によると、キャンデイスは結婚し、髪も黒く染め替えてミセス・ウオーターベリーになったが、夫は第二次大戦に出征し、戦場の露と消えた。その彼女にウオーターベリーの叔父で大富豪のハワード・パワーズ・モンローが近づき、1946年1月結婚していた。このときパワーズは65歳、それから推定すると現在パワーズは70近い、キャンデイスは27か28・・・・。やっと幻の彼女を突き止めた。

・ミセス・ウオーターベリーは理想の結婚をしたつもりでいた。彼女はパワーズがやがてこの世からいなくなることを予想、それまでの我慢、と考えた。しかし年は争えない。そんな時、エドワード・ホーマーと名乗る賭博師が彼女に近づいてきた。二人は急速に接近した。エドワードは実はダニーの使った偽名だった。宿命の二人が邂逅したわけだが、彼らには全能のパワーズの蔭、二人の行き着く先は・・・・。

エピローグ・・・・。

・ダニーはなんとか真実を語ろうとした。そのためにダニーはひたすら考え続け、自分に問いかけた。最初のうちクラッシーの肖像画は明確な線をなしていた、やがて輪郭が揺らぎ煙のように消えてしまった。その挙句、ダニーは悪夢を見るようにさえなった。あれらは一体なんだったのだろうか。

読み終わって習い性というものを感じた。人は若いときに一つの思い切った行動を取り、成功するとそれが習い性になる。よって悪人はいざとなれば「決して道をふみはずすことなく」悪事を重ねる。それにしても女性は恐ろしいですな。