ケンネル殺人事件       ヴァン・ダイン


創元推理文庫  KENNEL MURDER CASE 井上 勇 訳

 閂をかけた密室で、中国陶器の収集家アーチャー・コーが、ソファーに腰掛け、銃で頭部を撃ち抜いて死んでいた。自殺かとも思われたが、よく見ると鈍器で殴られた後、おまけに細い針状の凶器で胸をつらぬいた跡。事件前にシカゴに行くと言いながら、実際には行かなかった弟のブリスベーンが疑われるが、彼も撲殺死体となって発見されるに及び、事件は混迷を深める。
 例によってファイロ・ヴァンスとマーカムニューヨーク郡地方検事が取り組む。容疑者は、一見犬好きに見え、コー家の知人、好事家のリード、自分でも殺せるとうそぶくコーの姪ヒルダ・レイク、ミラノ東洋美術の収集家で、コーと美術品売却を巡ってトラブルを起こしているグラッシ、勉強家だがなにか怪しげなコー家の料理人リャン・・・・。ブリスベーンの死体と前後して発見された傷ついたテリア種の犬の所有者を当たるうちに事件は次第に解明されて行く。
 レイクとの結婚を反対された犯人が、図書室でコーを火かき棒で殴り殺し、短剣をさす。しかしコーは、余力で階段を登り、自室に行くが、作業をしているうちに事切れる。兄を嫌っていた弟のブリスベーンも、コーを殺すつもりでやってきたが、気を失っている様子なので、短銃をしっかり握らせ、引き金を引かせる。自殺に見せかけるためピンと紐でドアの閂をかけて脱出。コーがまだ生きているらしいと知ってあわてた犯人は、再び殺しに行くが、ブリスベーンをコーと間違えて撲殺、ついでについてきたテリア種の犬にも一発かませた。その上、捜査が始まると、自分が犯人にされてはかなわないとリャンは、証拠物件を図書室からコーの居室に移す・・・・。

 複雑きわまる殺害、死体処理プロセス、アリバイ作りは面白いが、現実性は全く無視されている。特に「死体が歩く」というのは殴り殺した後、短剣で刺しているだけにやりすぎという感じがする。テリア種の犬を介抱し、その犬の出所を当たるうち犯人が割れ、ドーベルマン種の犬に復讐を受けるというプロット、読者を煙に撒くような中国陶器についての蘊蓄が面白く、話に血を通わせている。

・(犬の年齢を確かめるためには)、歯を見るんだ。犬の乳歯と永久歯は、一定の、年齢に生える。たとえば、第三臼歯は、生後六ヶ月ないし九ヶ月の間に生える。そして、このスコッチーの臼歯は、ちゃんとよく生えそろっているから・・・(276p)

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