弓弦城殺人事件       カーター・デイクスン


ハヤカワ・ミステリ文庫 THE BOWSTRING MURDERS 加島祥造 訳

イーストアングリアの海岸にのぞむ弓弦城の主人は、ヘンリイ・スタイン(レイル卿)だが、彼は何事にも新品を嫌い、昔ながらの物を愛した。1931年の9月のこと、この城を卿の友人で英国博物館長ジョージ・アンストラザー卿と英文学教授のマイクル・テヤレインが訪れた。息子のフランシス・スタインが、最近女中のドリス・マンドオが、甲冑が階段の中途にたっているのを見かけた等の気味悪い話しをする。そのドリスは最近赤ん坊をはらんだ、という噂だ。レイル卿は歓迎してくれたが、秘書ブルース・マシイに「篭手がない。」と怒鳴りつけるなど気難しそうだ。
ところが、その夜、照明と言えば蝋燭の光りしかない甲冑室でレイル卿が絞め殺された。弓の弦を首に巻き付けて、殺したらしいのだが、鋭い爪で絞め殺された様にも見える。中にいたのは、誰かを待っていたらしい娘のパトリシア・スタインだけ。犯行推定時刻、正面入口はジョージ卿が監視しており、他の人物が入った様子はない。展示してあるつづれ織の陰に、外に出る出口があるのだが、なぜかレイル卿は昨日釘を打ちつけ、あかないようにしてしまった。パトリシアに事情説明を求めるうち、第二の殺人が起った。台所に行く通路で、ドリスが手に真珠の首飾りを持って絞め殺されていた。
ここでテヤレインの要請により、近くに滞在している犯罪学の権威と言われるジョン・ゴーントが呼ばれる。無愛想で、痩せていて、旧式の晩餐服のボタンをすっかりかけ、黒い襟巻きのようなネクタイをつけ、シャツの前には黒リボンつきの片眼鏡をぶら下げている。同時に地方区のテイブ警部。
レイル卿殺害の最大の謎は、犯人がパトリシアで無いとすれば、甲冑室は完全な密室に見えた事である。この密室の謎は、死者のスタイルから解かれた。上部に窓があるのだが、実は開けることができるのだ。犯人は籠手を使って絞め殺した後、被害者の首に弓の弦をかけて吊し、そのまま窓から足の方から落としたのである。ドリスも同じ。(なんだかブラウン神父の「ムーンクレセントの奇跡」みたい)次ぎに面白いのは、あの「黄色い部屋の謎」よろしく、犯人が被害者に変装して甲冑室に入り、今度は変装を解き、追い出されるふりをして部屋の外に出てきてアリバイ作りをするところだ。(このとき被害者はすでに殺されて甲冑室にいる。)
動機は至って簡単、盗みの現場を発見されてレイル卿を殺し、次には自分が孕ませた目撃者ドリスもというものである。しかし犯人がフランシスやその召使いのソーンダーズを犯人に見せようと工作したり、レイル卿がパトリシアの恋を知って邪魔をしたりしたため、話が複雑で面白くなっている。
(1933)
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