曲がった蝶番         デイクスン・カー


創元推理文庫 THE CROOKED HINGE 中村 能三 訳

ケント州の由緒ある家柄の准男爵ファーンリ家のもとに、突然、パトリック・ゴアなる男があらわれ「現在の当主は偽物であり、自分こそ本物だ。」と主張し、対決することになる。そして真偽の鑑別がつかぬまま、現在の当主が喉をかききられて、池に水死体となって浮かぶ。少年時代、有名なタイタニック号沈没の際、二人が入れ替わったのだろうか。指紋帳まで持ち出されて、現在の当主は偽であることを悲観し、自殺したというのだろうか。
この事件の一年前にヴィクトリア・デーリなる女性が殺され、犯人らしい浮浪者が死んで発見されたが、彼女にも、死んだ現在の当主にも黒魔術で使うベラドンナやトリカブトを混ぜた墨が塗ってあった。この墨を塗ると奇妙な興奮状態に陥るが、フェル博士はこの点に注目し、デーリはこの使用方法を間違えたと考える。
当主の妻のモーリ・ファーンリは、夫が偽物であることに気づいていた。しかし彼女は、黒魔術に凝っており、デーリ殺しの関係者である事を、当主は知っていた。二人はお互いの弱点を握りながら、かろうじて夫婦関係を維持していた。そこに本物があらわれ、二人は途端に恋に落ち、偽物を追い出そうと考えた。
目撃者の証言では、現場には一人しかおらず当主殺しは自殺に見えた。しかし他殺で、いったんはモーリがベランダから大きな鈎が4本植え込まれた鉛の球を投げ、かき切ったとの結論になるが、最後のゴアの告白で両足のないゴアが義足を取って草むらに隠れ、当主に襲いかかり刺し殺した、に逆転する。
この外にも動く大きな人形の話なども面白く、カー作品の面目躍如と言ったところ。ゴアとモーリがどこか南の国に逃げ出し、そこから手紙を送ったというエンデイングも気が利いている。なお原題の曲がった蝶番というのはタイタニック号が壊れて行く際、ねじれていった蝶番をイメージしたもののようだ。
・ヤツメウナギのプトマイン中毒(21P)
・ベラドンナは皮膚の気孔から吸収されるとたちまち興奮状態になり、ついで、激しい幻覚と精神錯乱の症状が現れ、最後は意識不明に陥ります。おまけにトリカブトによる症状が加わるのです。すなわち、心理的錯乱、めまい、運動不自由、心臓活動の不整、そして、最後に意識不明です。(259P)
・高言をはくようですが、ぼくは自分の背の高さを自由にすることが出来るのであって・・・・(321P)