創元推理文庫 THE PROBLEM OF THE GREEN CAPSULE 宇野 利泰訳
ロンドン警視庁のエリオット警部は、頑固なマーカス・チェズニイ、その美しい姪マージョリイ・ウイルズ等と共にポンペイ見物を楽しんだ。ジョージ・ハーデイングという化学者の青年が同行していたが、旅の途中でマージョリイと恋仲になり、結婚するのだそうだ。普段質素な一家が旅行に来たのは、「彼らの住むソドベリイ・クロス村のたばこ・菓子店で売られたチョコレートの中にストリキニーネが入っていて、それを食べた子供4人が中毒にかかり、うち一人が死ぬという事件がおきた、チョコレートを買いに行かせたマージョリイがすり替えたのではないか、と疑われた、逮捕されたわけではいないが、気分が悪いのでこうして旅行に出かけてきた」というのだ。
マーカス・チェズニイの荘園:夕食のおり、マーカスが、人の見たことはあてにならぬ、という論を展開したところ、皆が反対した。それなら試してみせる、劇で村で起こった毒殺事件のトリックも見せると12時まで待って公開実験を行った。劇の主演はマーカス、助演は使用人のエメット、見物人はマージョリイ、ジョージ、それにマーカスの友人イングラム教授。弟の医師ジョウは、お産で余所にでていた。劇をジョージが映写フィルムに治める。マーカスが書斎で書き物をしていると、窓から全身布で覆った賊が侵入、マーカスに緑色のカプセルを飲ませて消えた。そして幕、さあ質問するぞ、と構えたところ急に苦しみ出し絶命。死因は青酸中毒だった。庭の木の陰でエメットが殴り倒されて気絶していた。エリオットが捜査する事になった。
全身覆った男は、底に挟みバネを底につけた奇術用のカバンを持っていた事が分かった。何かの上においてボタンを押すと自動的にしたにあるものを取り込む。これはチョコレート毒殺事件にも使われたようだ。大時計は、針を進める装置が壊れているから正確のようだ。浴室の奧に青酸の入った小瓶が置いてあった。しかし見ていた3人は互いを確認しており、ジョウは物理的に無理で事件は暗礁に乗り上げた。
エリオットから相談をうけたフエル博士は容疑者はエメットとするが、そのエメットが深夜青酸を皮下注射され、殺されてしまった。フィルムを見ることにする。何とマーカスの持っていたのは時計の長針、後ろの時計には短針しかついていない。針が2本に見えたのは短針の影が映っていたからでマーカスのトリックだった。これではジョウまでアリバイが無くなる。そして注射器がマージョリーの宝石箱の中から見つかった。するとエメットとマージョリーの共犯で後でエメットを毒殺したのか。
マージョリーとジョージは実は旅行に行く前から知り合っていたらしい、あの旅行の費用も叔父の信頼を得るため、マージョリーが出してやった事が分かった。マージョリーに疑いがかかる中で二人は結婚する。
大詰め、フエル博士は男性の場合の毒殺犯の特色を事例をひいて延べた後、もう一度フィルムを見ることを主張する。そしてマーカスの何か囁いている言葉を読唇術のあるマージョリーに訳してもらうと、とんでもない事実。あのフィルムは実際は犯行時に撮影されたものではない!しかもマーカスは助演をエメット以外にもう一人使っていた!
作者特有のオカルト的な話は無いが、犯罪のプロセス、解明等の論理は複雑で精巧である。また毒殺者の心理分析も面白い。毒殺ものでこれだけ明快に論じている作品は少ない。前半のチョコレートによる毒殺事件はアントニー・バークリーの「毒入りチョコレート事件」クレイトン・ロースンの「帽子から飛び出した死」を思い出した。劇を演じ、その中で殺人が起こるという話は、アガサ・クリステイの「死者のあやまち」を思い出した。
・1939年当時の青酸と青酸カリの販売の状況、致死量を桃の核から作るとおよそ5600個必要。(147P)
・毒殺者:毒殺者は男の場合は、毒殺という狡猾さに、悪魔的な謀略が加わってくるんだ。彼らはそろって想像力にひいで、教育もあり、知識階級に属している。モルヒネの場合、被害者の瞳孔収縮によって、容易に判別できるのでベラドンナを混ぜた者までいる。かれらのもう一つ目立つ特色は友人間で気持ちのいい男だというので評判がいい。ところが彼らにはもっと肝要な部分が潜んでいる。相手の苦痛に対する無関心がそれだ。金と地位を求めて結婚したのではない、と涙ながらにいいながら、前妻が邪魔と見れば平気で毒殺している例がある。第二の特色は異常なまでの虚栄心だ。柩の蓋を開けて、殺した妻の唇に接吻した者もいる。ところがこの虚栄心が煮えたぎって収まらなくなり、我が身を亡ぼしてしまうことがある。(307P前後の要約)
・毒殺者の三つの危険:1被害者が死んだかどうか見届けなければならない2自分が毒を盛る機会が無いことを証明する必要がある3毒物の入手を極秘裏にしないといけない(312P)
・カバンを持っていても怪しまれぬ人物=旅行者(333P)
・医師の死亡証明書の内、何パーセントが殺人であるか?(310P)
(1939 33)
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