ナイルに死す      アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 DEATH ON THE NILE   加島 祥造 訳

 前書きにあるごとく「ひとときを、犯罪の世界に逃れるばかりでなく、南国の陽射しとナイルの青い水の国に逃れる事の出来る」作品である。

 ジャクリーンとサイモンは婚約し、未来について田舎町の酒場で楽しげに話していたが、偶然にそれを聞いたポアロは、女が男を愛しすぎており、危険な予兆を感じた。数ヶ月して美貌で金持ちのリネットがサイモンと結婚し、ポアロも行く予定にしていたナイル川クルーズに新婚旅行に行くとの報が流れた。
 クルーズ参加者は、三人の外、売れない女流作家とその娘、金持ちの老婦人とその従姉妹、アメリカから偶然やってきたというリネットの財産管理人、弁護士、考古学者、社会主義的な男等だったが、ポアロを驚かせたのはジャックリーンがリネット、サイモンの跡をつけるようにして参加していたことだった。
 凶兆はアブシンベル神殿でおこった。リネット等が見物しているその目の前に大石が転がり落ちてきたのである。事件はだんだんヒステリーになったジャクリーンが、サイモンを撃ち、怪我をさせたその直後に起こった。自室で寝ていたリネットが頭を何物かにピストルで撃ち殺されたのだ。しかも凶器と高価な真珠の首飾りが消失した。さらに真実を探り当てた女中が1000フラン札を握ったまま死に、事実を告げようとしたあの女流作家がガラス越にピストルで撃たれ即死した。
 いくつかの犯罪のかさなった事件だった。宝石泥棒、それまでリネットが成人に達しておらず、問題にならなかったが、突如として結婚し、不正が発覚するとおそれた米国管財人のリネット抹殺作戦、民衆扇動家の動き等々。しかし中心をなしているのはジャックリーンとサイモンの財産奪取を目的とした犯罪である。ジャックリーンと謀って、リネットと結婚したサイモンの二人は、不仲を宣伝する。そしてそれが頂点に達したとき、ジャックリーンに撃たれたふりをして、サイモンはベッドに運ばれた。しかし彼はわずかな隙に抜けだし、リネットを襲い、すぐ自室に戻った。肩かけにまいたピストルで自らの足を撃ち、凶器を水の中に捨てた。呼びに言った医者が駆けつけた時は本当に怪我をしていたという作戦だった。しかし目撃者がおり、そちらはジャックリーンがねらうことに・・・・。

・それで何か小さな事実がその説にあてはまらないと、その事実を放り出してしまう。ところがそのあてはまらない事実こそ、得てして意味深長なことが多いのです。(358P)
・この犯罪には、大胆さ、敏捷で確実な実行力、勇気、危険に対する無頓着さ、機略縦横名計画的な頭脳が必要です。ベニントンにはこのような素質がありません。彼には絶対安全と分かっている犯罪以外には出来ないのです。今度の犯罪は安全どころじゃない!剃刀の刃を渡るような危険な犯罪です。よほどの肝っ玉が必要です。ベニントンの肝っ玉は小さい。ただ抜け目がないだけです。(402P)
・真珠を数珠の中に隠す(406P)
・(考古学と推理は似ている)事件とは無関係な、紛らわしい物を全部取り除いて、真実だけが見えるようにする。むきだしの、無垢な真実だけが・・・。(420p)

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