創元推理文庫 DEATH TURNS THE TABLE 厚木 淳 訳
高等法院判事アイアトンは猫が鼠をなぶるように冷酷に人を裁く事で知られていた。彼はその娘コンスタンスを王室弁護士フレデリック・バーロウと結婚させる事を願っていたが、彼女が選んだ相手はイタリア系のかって女をだましたと裁判にかけられた事のあるモレルという男だった。判事はモレルを夜別荘に呼び付け、金で解決しようとするが、発見された時モレルは銃殺され、側には銃をもった判事の姿があった。
果たして判事がが殺したのか。電話交換手の聞いた奇妙な電話、零れでていた赤い砂、壊れた電話機、聞こえた二発の銃声、近くの原で見つかった薬莢、砂をかきならした痕、そして自動車がえんこしてしまった為立ち寄ったコンスタンスの証言、フェル博士がそれらの疑問を一つ一つ吟味してゆく。
その結果、モレルは近くの原で待ち伏せた上銃殺され、別荘に運び込まれ、犯人は大鹿の剥製と電話機を撃って偽装したと解釈される。犯人はバーロウ?。しかし娘はそれが父である事を知っており、悩む。夜判事を訪問したフェルは自身による解決を彼に迫る。
話はすっきりしており、判事の性格のかき分けが見事である。推理小説としての謎(死体移動、犯行偽装、上手に残された手がかりなど)もふんだんでうまさを感じる。
・ナポレオンいわく。男は六時間、女は七時間、そして愚者は八時間眠るとな。(146P)
・なにせ法律家だ。・・・・狡猾な殺人者、間抜けな殺人者、臆病な殺人者、度胸のある殺人者たちだ。そして完全犯罪などという物が無い事も知っておった。彼は殺人者が敗北を喫するのは、その計画の不備のせいでもなく、また警察の賢明さによる物でもない事を知っていた。殺人者の敗因は事故によるのだ。すなわち犯罪遂行の途上には、事前に予測出来ぬ些細な偶然が多々潜んでいる・・・・だからこの男は、最上の犯罪とはもっとも単純なものであると心得ていた。(272P)