オリエント急行の殺人  アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 MURDER ON THE ORIENT EXPRESS 中村 能三 訳

 シリアから帰路に着いたポアロは、タウルス特急をイスタンブールで乗り継ぎ、シンプソンオリエント急行でフランスに向かった。厳寒の季節にも関わらず列車は満員、ポアロはやっと一つ寝台を確保するができた。しかし案の定、ユーゴスラヴィアの山の中で雪に閉じ込められてしまった。

 そして最初から感じが悪かったあのラチェットというアメリカ人が満身十二個所の刺し傷を受け手殺されていた。浅い傷あり、深い傷あり・・・・。ラチェットはあの愛児が誘拐され、身代金を払ったにも関わらず殺されたアームストロング事件の犯人だった。
 乗客には全員アリバイがあったが・・・・。ボーイは自分の席を動かなかったと言うが、廊下でボーイと突き当たったなどの矛盾する証言。複数の乗客が見たという赤い寝間着の女。現場に落ちていたパイプクリーナー、Hのイニシアルの縫い込まれた高級ハンカチ。ラチェットはフランス語がしゃべれないはずだが、受け答えを聴いたという証言。そして次々に浮かびあがる乗客のあの事件との関わり合い。

 外部からの侵入者の犯行に見せようとした作戦は大雪で見事に覆されてしまった。ついにポアロは乗客、係員全員が犯人であり、周到に計画された復讐を目的とした犯罪であることを見破る。しかし被害者は殺されてしかるべき男だ、愛児を殺され、さらに関係者も多数死んだ一族の気持ち・・・ポアロもまた人間であった。

 発売当時、ベストセラーとなった話題作。全員が犯人という奇想天外な着想もさる事ながら、全体を三部に分けたわかりやすい語り口、共感を呼ぶ会話、読者にあたかもオリエント急行の豪華な旅を楽しんでいるように感じさせる記述、それらが渾然一体となって楽しませてくれる。

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