ハヤカワ・ミステリ文庫 HERCULE POIROT'S CHRISTMAS 村上 啓夫訳
嵐の後の山荘型ストーリーで、クリステイ作品らしく最初の三分の一くらいまでが登場人物や状況の説明に割かれている。
妻をいじめ抜いて殺してしまったほどのわがままで横暴、しかし大富豪老人シメオン・リーは親族を呼び寄せてクリスマスを祝う。彼に踏みつけられながら、従順に従う長男のアルフレッド夫妻、能なし代議士ジョージ夫妻、死んだ母を慕って親父を恨む画家のデヴィッド夫妻、突然戻ってきた放蕩息子ハリー、孫娘と称する情熱的なピラール嬢、旧友の息子と称するステイーヴン等と役者がそろう。これに召使いが加わって織りなす一週間の物語。
シメオン老人と皆の話し合いが喧嘩別れのようになった後、隣室からデヴィッドの葬送行進曲の流れる中、突然、階上から物のひっくり返る音と老人の断末魔の声が聞こえる。あわてて駆けつけると、密室の中は血の海、老人がのどをかききられて死んでいた。
地元警察の警視サグデンの要請を受けた州の警察部長とともにポアロが出動。もちろん登場人物全員に動機らしき物があり、怪しめばアリバイは不完全と来る。
犯罪のポイントは殺人現場の偽装である。最初に訪問した時に、犯人は老人ののどをかききって殺してしまう。ダイヤモンドを奪い、家具等を積み重ねて、紐を結びつけ家の外に垂らしておく、クエン酸ナトリウムに動物の血と被害者の血を混ぜてあたりにまき散らす、空気を詰めたゴムの細長い袋が紐を引けば穴があくようにしておく、そして現場を密室にした上立ち去る。適当な時刻に紐を引くと、ガラガラと大きな音がし、ゴムの袋から空気がもれて老人の断末魔の声が発せられる、という仕掛けである。
それにしても、老人には男の子が他に二人もいて、犯人はそのうちの一人で警察官、というのは何かアクロイド事件以上にだまされた感じがする?。
・私の考えでは、重大なのは現在で過去ではないと思うのです。過去は去らしめよ、ですわ。(42P)
・被害者の性格はいつも、彼または彼女の殺害と何らかの関係を持っているものです。デスデモナの死は、彼女の淡泊で人を疑わぬ心がその直接の原因だった。(162P)
・メンデルの法則・・・青い目の二人から茶色の女の子どもが生まれることはほとんどない(327P)
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