ハヤカワ・ミステリ文庫 POIROT INVESTIGATES 小倉 多加志 訳
クリステイ33歳の時に出された短編集。若いときに書かれた、しかも短編集であるだけに、余分な説明はなく、一気に事件に切り込んで行く。謎としても凝っているが、解決編はややポアロのホームズ的超能力?によるところも目立つようだ。
<西部の星>盗難事件・・・・一つのダイヤを二つに見せる
ある女優夫人から、自分の持っているダイヤモンドにはロマンテイックな逸話があるがそれが狙われている、との相談を受けたところから始まる。ヘイステイングス等の見ているところで電気が消え侵入してきた何者かにそのダイヤが奪われ、しばらくして別の名家から同じ形状の対になったダイヤがだまし取られる。
事件は数年前に女優夫人が情事を種に名家の主人から強請られ、ダイヤを取られてしまったので模造品をつくって夫にごまかしていた。ところが夫が財政難に陥り、ダイヤを売ろうと言うことになり夫人は大慌て、名家の主人に電話し対策を検討。共に盗まれると言う筋書きを作ったが・・・・。
マースドン荘の惨劇・・・幽霊出現で自白をせまる
保険会社から老人が自殺したが、直前に多くの保険金がかけられていたとの話。心臓発作と断定した医者に聞くと、診たこともなくどうも怪しい。うちし折れる若奥さんは何も知らないと言う。彼女に好意を持っている青年に心理テストを試みるが知らない様子。
しかし全体を把握したポアロは、知り合いの俳優に頼んで夜中に幽霊を出現させ、心理的に若奥さんを追いつめ、ついに彼女が青年と出来ており、保険金を目的として夫を自殺に見せ掛けて撃ち殺したことを白状させる。
安アパート事件・・・・入居者は自分の変わりに殺される役
ロビンソン夫婦が契約したアパートは破格の安値。不審に思ったポアロが調べると、実はロビンソンと言う名の女が国際的スパイ殺人事件がらみである男を殺した。ところがその復讐でマフィアが立ち上がったらしい。驚いた女は自分の家をロビンソンという名の夫婦を選んで貸し、脱走することにした。殺されるのは新しいロビンソン夫人・・・・。
猟人荘の怪事件・・・・自殺補助
若い男から「電報で叔父が撃ち殺されたので助けてほしい」との依頼。調べに行くとお手伝いのオバサンと女優で男の妻が代わる代わる出てきて状況説明、図書室で侵入してきた何者かに叔父さんは銃殺されたらしい。やがて銃は離れたところで見つかった・・・・。
ポアロはオバサンと男の妻は一人二役、遺産狙いで彼女が資産家の叔父を撃ち殺した、亭主は銃を処理するなどアシストしたと見破る。
百万ドル債権盗難事件・・・・いったん偽物と交換し、後に盗み出す
ニューヨークに向かう船の中で、厳重に鍵をしたカバンがこじ開けられ、中の債権が蒸発し、売りに出されてしまった、助けてほしいと言う相談。債権が上陸した様子は全くない。しかし調べてみると船には怪しい病人が一人乗っており、盗まれた債権はニューヨークに船が着く前に売り出されていた・・・・。
ポアロは債権がロンドンで既に合い鍵を持つ男によって偽物とすり替えられ、さらにその男はあの船の中の病人の男で、カバンの中に偽債権を取り出し海中に捨てたことを見破る。
エジプト墳墓の謎・・・・迷信の恐ろしさ
古墳発掘団の一人が死んだ。犯罪者はこれを昔の王のたたりとみんなに信じ込ませ、そのたたりの結果として人が死んだように見せ掛けて、次々に殺人を犯すというもの。目的は遺産の奪取。最初に死んだのはジョン・ウイラード卿、彼は心臓発作だった。次に死んだのは相棒の財産家、これは敗血症だった。財産は跡を追って調査に来た甥のところに行くことになったが 彼はニューヨークに戻ってピストル自殺。しかし彼はライ病であると信じていた。
犯人は発掘団に参加していた医師で、遺言状で財産をもらうことになっていた・・・。
・ぼくは、迷信の及ぼす力の恐ろしさを信じたんだ。(154P)
グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件・・・・隣の空き室
ベテランの小間使いが、番をしている部屋で衣装ダンスの中においた宝石箱から、高価な真珠の首飾りが消えた。小間使いが、隣の自分の部屋に離籍をしたのはわずかに2度、外にはメイドがいただけ。証拠が見つかって小間使いが疑われるが、ポアロはわずかに残っていたチャーの粉から、2度の離籍の間に、メイドと反対隣の空室に潜んでいたボーイが犯した窃盗であることを見破る。
総理大臣の失踪・・・・替え玉二人で誘拐劇
重要な会議を控えた総理大臣がウインザーからロンドンに戻る途中襲われ、さらにフランスについてから二人は誘拐されてしまう。果たして敵国ドイツの仕業だろうか。ポアロは犯人は周囲の人間と断定し、なぜイギリスで襲われたかを考え、総理大臣は国を出ていないと推理。事実はイギリスで二人はクロロフォルムなどで眠らされ、替え玉と交代させられ、海をわたったのは替え玉だった・・・・。それにしても総理大臣の警備の手薄なこと!
・塩化エチールのような即効的な麻酔薬(214p)
ダウン・ハイム失踪事件・・・・隠れ家としての刑務所
ダウン・ハイム氏が突然失踪、しかも金庫が荒らされ、宝石等が盗まれていることがわかった。近くにいた男が容疑者として逮捕されるが、はっきりしない。ところがビリーなる男が氏の指輪を質入れしたことが発覚、逮捕される。彼はその指輪を拾ったと主張。しかしポアロはビリーがダウン・ハイム氏その人であることを見破る。しばらく身を隠すのに刑務所ほど安全なところはない。目的は自分自身の財産の使い込み発覚を恐れたため。
イタリア貴族殺害事件・・・・強請の話を立ち聞きして
助けを求める声に驚き駆けつけると、食事中のフォスカニーニ伯爵が鈍器で殴り殺されていた。ボーイの話では前日もその日もイタリア人二人組みがきていたという。そしてそのうちの一人アスカニオ氏が逮捕されるが、彼は強請られていたのは自分たちの主人で、犯行前日交渉のため出向いたが、当日は行かなかったという。ポアロは食べかけの食事と明けていないカーテンから食事中に殺されたように見せかけようとしたと考え、ボーイを追求。(強請の金奪取が目的)
謎の遺言書・・・・あぶり出し遺言書
仲たがいしながら互いに認め合った叔父と姪。叔父は遺言のありかが解けたら遺産をおまえにやろうと言い残して死んだ。屋敷のどこに鍵がある・・・。あぶり出しの遺言とは面白いアイデア。
ヴェールをかけた女・・・・探偵に捜させる
ヴェールをかけた人品卑しからぬ娘がやってきて「近く高貴な公爵と結婚する予定だが、ただ1回の恋の手紙を種に強請られている、助けてほしい。」ポアロが強請った相手の屋敷を捜しついに台所の薪の中に潜り込ませてあった手紙の入った中国製の箱を取り戻した。女は喜んだが、その箱に執着の様子。ポアロが取り返すと、底から宝石が出てきた。女と強請った男は窃盗団の一味だったが、仲間の一人が宝石を盗み、家のどこかに隠し、とんと見つからぬ、それでポアロをだまして捜させたのだった。
消えた廃坑・・・・金に困った二人
「ビルマで中国人は銀を採取後、豊富な鉛の入っている滓をどこかに捨てた。その地図を中国人の呉がイギリスに持ってきたが失踪した後、死体となってテームズ河に浮かんだ、何とかしてくれ。」と買取りを予定した会社のピアスン氏が飛び込んできた。途中会社の代表と偽って呉を迎えたレスターが捕まったが、ポアロは真の犯人はピアスン氏と断定。彼は呉を連れ出したが、かくまった中国人グループが呉を殺してしまった。驚いたピアスン氏は罪をレスター氏に擦り付けようとしたのだった。
チョコレートの箱・・・・母の息子暗殺
めずらしくポアロの失敗談。デルラール氏はかって資産家の娘と結婚し、彼女が死に、富を得、今大臣にも登る勢い。その彼が家で食事中突然死した。しかし新しい婚約者のヴィルジニー嬢は殺されたかも調べてほしい、と要請。氏は無類のチョコレート好き、それを良く似た色の血圧降下剤トリニトリンに換えたのではないか、と考え、そのルートをたどり、知人のイギリス人ウイリアム氏にたどり着く。しかし間際になって母親が「殺したのは私です。あの子が前の嫁同様、ヴィルジニーさんを殺すことを恐れたからです。容器をはただ単に捨ててもらおうと思ってウイリアム氏のポケットにいれたのです。」
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