ポケットにライ麦を     アガサ・クリステイ


ハヤカワ・ミステリ文庫 A POCKETFUL OF RYE 宇野 利泰 訳

 秘書のグロブナー嬢が朝のお茶を持って行くと、社長レックス・フォテスキューが苦しんでおり、まもなく、亡くなった。死因はなんと櫟井の木から取るタキシンというアルカロイド毒で、自宅で取った朝の紅茶にでも入れられていたのだろうと考えられた。それにしても、何のまじないか、ポケットにライ麦がいっぱい。
 レックス家には極端に若い二度目の妻アデイール、長男のパーシヴァル夫妻、娘のエレイヌ、義姉のランズボトム夫人が住み、実質的には家政婦のメアリーとクランプ夫妻が動かしていた。アデイールは若いツバメ、ヴィヴィアンと遊び歩いていたことから、彼女が一服盛ったのでは無いかと考えられた。
 やがて放蕩で一度は追い出された弟のランスロット夫妻が、父に呼ばれたからと称し戻ってくる。そのさなか、疑惑のアデイール夫人が紅茶を飲んで倒れた。青酸カリ中毒死だった。小間使いのグラデイスが、鼻を洗濯挟で摘まれて絞め殺された。ニール警部とともにマープル夫人が捜査に乗り出す。
 これらの事件がマザーグースの歌と対応していることが分かった。タキシン混入はマーマレードだった。数ヶ月前にフォテスキュウーにつぐみ入りのパイが贈られたことから、かってつぐみ鉱山事件で横死した男の復讐との説が流れた。ならば誰が復讐者として潜り込んでいるのか。遺産は長男にすべて行くことになっていたが、最近父と折れ合いが悪く、それで父は弟を呼び寄せたらしい。それなら長男が殺人犯か。
 マープル夫人は、つぐみ事件を利用した犯罪、最初の社長殺しはタキシンを混入できたグラデイスの犯行だが、彼女は踊らせれていた、証拠がライ麦と結論づける。主犯は、実は今はぼろ株となったはずのつぐみ鉱山跡地からウランが発見された事を知った男だった。

 櫟井の実を真相発見薬だと信じ込ませ、グラデイスに犯行を行わせるやり方が面白い。クリステイ作品のなかでも良く出来ている方と思うが、次のような疑問も湧いた。
(1)櫟井の実の毒などと言う事が、どうしてこんなに簡単に分かったのだろう。
(2)グラデイスの犯行との決定に証拠がない。
(3)なぜマザーグースの歌に合わせなければいけないか、なぜアデイールを殺す必要があったのかなどは疑問。
(4)マープルが犯人を断定し、後から送られてきた死んだグラデイスの手紙でそれが証明される、という解決方法は安易な気がする。手紙が無ければとても立件できた代物ではない。
 インターネットで調べたところ、タキシンは少量であれば漢方薬として利尿剤に用いられる。また最近は「癌に効く」という話もあるようだ。しかしその実が5粒もあれば、幼児くらいは殺せるという。

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