創元推理文庫 THE CASE BOOK OF PRINCE ZALESKI 中村 能三訳
シャーロックホームズのライヴァルたちは「隅の老人」「思考機械」等非常に特殊な環境の人間が主役になっているが、このプリンス・ザレスキーも例外ではない。引退したある国の王子様という設定で、あらゆることに精通し、頭脳は飛びぬけて良い事になっている。
オーヴンの一族
プリンス・ザレスキーが世に出る事になったファランクスの迷宮事件を取り上げる。息子ランドルフと仲の悪かったファランクス卿は、突如として息子を呼び寄せ、屋敷に住まわせる。同じころ、モード・ジブラと称する女性が卿を訪れるようになる。そしてある夜階下で銃声、駆けつけると卿が胸を刺され、その上、銃で撃ちぬかれて死んでおり、側にはモード・ジブラが指を切断され失神していた。指は窓の外でみつかった。屋敷の外には雪の上にてんてんと続く足跡、そしてその向こうにはファランクス卿の宝石がばらまかれていた。当局はモード・ジブラを逮捕、やがて死刑が決まった。
しかしザレスキーはファランクス卿の一族には狂気の血が流れており、卿もついに発病、かけた保険の獲得をねらって他殺に見せかけた自殺を決意、窓には触れると刃が落ちる仕掛けをし、雪の野に足跡と宝石の証拠を残し、剣で自分自身をついた。そこにファランクス卿殺害をねらっていたモード・ジブラが侵入、死体に向けてもう一度発砲し、逃げようとしたが、盗難よけの装置をつけた窓で指を切断したものだった。
エドマンズベリー僧院の宝石
自分の宝石を召し使いのウル=ジャバルがねらっていると不信を募らせるジョスリン・ソウル卿。宝石はいつのまにか茶色の宝石に入れ替わっていた。それがいつのまにか白い宝石になった。ウル=ジャバルのしわざか、それにしてもこいつは何処にいくにも私に付いてくる・・・・。
実はウル=ジャバルはイスラム暗殺団の一味で卿の父に持ち去られた宝石を取り戻しに来たのだ。ところが宝石がいつのまにか変わってしまって、こちらも大変。実は宝石がトルコ石で、時間の経過と共に色の変わるものだった。
S.S.
舌のしたに羊皮紙で書かれた怪しげなパピルスを入れられて多くの人が次々と死んでゆく。ザレスキーはその意味解明に心血を注ぎ、ついにテームス川沿いに本部をおく狂信主義者の巣くつを発見。彼らはスパルタ人を信じており、「役に立たなくなったものがはびこる事により、世の中がおかしくなっている。そのような人間は抹殺してしまうべきだ。」と考えていた。
・現代国家は不健康な国民に下らぬ治療を加え、いじり回す事によって、緩慢に黙々として致命的な損害を受けつつあるのだ。(115P)
プリンス・ザレスキーふたたび
母が関係のない人間を殺して、捜査を撹乱し、息子が目的とする者共を殺すというパターン。スペインの狂信的保守主義者の犯罪で、警察に届いた脅迫文を解明する事によって解決した。
推理の一問題
ヒルダと婚約しているオーブリは貧しい画家だが、ある日交通事故に遭いそうになったフィリップ郷を救う。卿には娘ローラと悪で知られる愛人ラ・ローサがいた。卿はやがて自殺するが、オーブリを気に入り遺言状で年金を与えることにする。オーブリは喜んでこれで結婚できると思っていると、実は誕生日に与えるとのこと、そこでラ・ローサの入れ知恵で第二のオーブリに頼み、遺贈を受けるが、彼は持ち逃げしてしまう。追いかけて行くとラ・ローサ宅へ。そこで子供が銃で撃たれ怪我、しかもオーブリはどこかへ消えてしまった・・・。
なぜ誕生日にしかもらえないと困るのか・・・・実は彼は2月29日生まれ、4年に1回しかもらえないことになる。マンガチック!
第二のオーブリとは何者か・・・・ラ・ローサの手先で卿の財産を横取りしようとした。
子供の誘拐やら負傷やらがでるが、何か・・・・ラ・ローサが分かれた伯爵の財産目当てに偽の子供をでっちあげようとしていた。
第一のオーブリはどうなったか、ヒルダの運命やいかに・・・ラ・ローサに捕まったが、解放され、後にヒルダと結婚する。
実に複雑・・・・ややこしすぎて読む気がなくなってしまった。
モンク、女たちを騒がす
「たった一人の男の後を追って、女という女がロンドン中を群をなして狂奔する」場面を見せようとのモンクの気まぐれから発想した事件。指輪の宝石が本人の見ている目の前でなくなる(上から別の宝石をかぶせて変えてしまう)のだが、そのテクニックはどうもわかりにくい。(210p)
モンク、「精神の偉大さ」を定義する
「ニューマン枢機卿が未開人である。」との発言からそもそも未開人とはなにか、非文明とは何かを議論した作品で推理小説とは関係ない。しかし全体を通じてモンクの考え方が分かる気がする。貿易商にして伝導師の子として生まれた作者は、厳しい自然教育と宗教教育の元で育ったらしい。そのせいか、一面では理性に基づく見方を重視しながら、キリスト教文明の絶対的な優位性を信じているようである。
・プラトンは未開人ではないが、トルコ皇帝は未開人だとする場合、このプラトンと皇帝の相違は何によるのだ?(225p)
・知識は必ずしも頭脳を進化させるとは限らない(270p)
・特に注目してもらいたいのは、特定の信念からの離脱は、それを固く信じていたものにとって「恥辱」であるというあたり、現代の風潮からなんと遠いことかと言うところだ。(279p)
モンク、木霊を呼び醒ます
「まず犯罪を考え出し、それを実行できるように組み立て、それから、この夜のどこかで犯罪を犯している人物を捜し出して、その事件に巻き込まれればいいんだよ。」(290p)という面白い考え方から出発している。
スコットランドの廃屋に忍び込んだモンクは、そこで准男爵が精神異常者を作る実験をしている事を発見。モンクも捕らえられるが、主人と下男、下女の間に考え方のずれを生じさせ、見事に脱出に成功する。
・あんたの死体を綿火薬と時限信管と一緒に荷箱につめて・・・(304p)
・燐の自然発火利用(309p)