創元推理文庫 DON'T MONKEY WITH MURDER 中村 有希 訳
イースト・リートにいるポール・ヴィラグという動物学者から、「最近私のアーマが二度も誘拐された。私は理由が分からず心配だ、調べてほしい」との手紙。主人公の犯罪ジャーナリストトビー・ダイクが、親友のジョージと出かけると、ヴィラグの娘マーテイが迎えに来ていて、「誘拐されかけたのは「猿のアーマ」である。父のポールは、トバゴ島でマイアル氏の援助を受けて動物の研究を続けていたが、最近マイアル氏が死亡、全財産をローザ・マイアルが譲り受けた。彼女は、なんと猿2頭を譲るなら、今後も研究の援助をすると申し出た。そこでアーマとレオフリックという猿とつれてきた。」
ところがトビーが、医者のケネスと相前後して、ローザの屋敷に到着するとローザは行方不明、猿のアーマは短剣で刺し殺されていた。この辺がこの作品のなんともとぼけたところである。
話が進むうちに人間関係が次第に明らかになって行く。ポールの助手のインガムは殺人容疑が掛かったことがある、ローザの養女のキャサリンと秘書のマリオンは犬猿の仲、マリオンとケネスは婚約をしている等々。
事件の状況も同様。アーマの死体は引きづった後がある、出血量が随分多い、短剣は不思議に柄の部分に血が付いていないなど。さらになぜローザが猿を望んだかというと、彼女は大変な権威主義で潔癖主義、イースト・リートの住民を支配し、みだらな行動を認めず、環境を重視し、いままた酒の販売を禁じてしまおうとしていた。そこで販売元の社長の貴族が動物好きなことに目をつけ、猿をくれてやって、酒の販売をやめてもらおうと考えたのだ。この辺のアイデアの荒唐無稽ぶりも傑作。
犯人像は、動機も絡まって二転三転、最初はインガム、次に牧師、最後にローザ・マイアルに落ち着くのだが、彼女は殺されていた。しかも殺した犯人と死体を隠した犯人が別、と言う具合でどんでん返しの連続、何だか折原一の作品を読んでいるようだった。
訳し方が比較的大人しいようなので、はっきりとは分からぬがユーモア推理小説といった趣で、原文はどうなっているのだろうと思った。とにかく殺されたのが猿なのだから、気楽に読める。しかし推理小説としての要素はなかなかで、猿の持っている竹の棒に短剣をさして突き刺してた、トビーが訪問したときケネスが同時に到着したように見えたが、実はローザの死体を後ろに積んでいて部屋から出てきたばかりだった、などというのは本格好みの書き方だと思う。
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