創元推理文庫 THE CURSE OF THE BRONZE LAMP 後藤 安彦訳
女流探検家のヘレン・ローリングは、カイロに父親の考古学者セヴァーン伯爵と助手のサンデイをおいて、H.Mことヘンリー・メリヴェール郷とイギリスに戻った。その際、彼女は発掘した青銅のランプを持ち帰るが、アリム・ベイは「ランプを持ち帰るな、あのランプには人間消失の呪が込められている。」と忠告する。
へレンは青年弁護士のキット・ファレル、オードリー・ヴェーンと共に車でセヴァーンホールに向かい、玄関前でランプと共に一足先にホールに向かう。ホールでは突然の令嬢の帰還の知らせに、執事のベンスンとボンフレット夫人があわてて迎えに出る。ところがへレンがいない!洋服とランプだけが残されている!
事件の直前にホールにかかる「セヴァーン伯夫人オーガスタ」の絵が突然消失したが、ジュリア・マンスフィールド経営の骨董店で発見された。今回発掘した黄金の短剣と黄金の香箱が無くなった、持ち出したのではないか、調査してくれと要請され、ロンドン警視庁のマスターズ主席警部が到着した。しかも要請したのはセヴァーン卿本人で、あの品物はボーモントなるアメリカ人が高値で購入を希望していたと言う。H.Mはまたヘレンの部屋に黄色の水仙が飾られていたことに着目する。エジプトで起こした騒動の背後に映っているヘレンを見てひらめき、ヘレンがどうなったか分かったとつぶやく。
ところが今度は戻ってきたセヴァーン卿が消失した。守衛は車で門を通過するのを確認したのだが、忽然と消えてしまったのである。しかし書斎には卿の衣服と青銅のランプ。果たして二人は殺されたのか。しかしヘレンが恋人キットのもとに突然現れ、捜査のため消えていたH.Mも出現、事件はようやく解決に向かう。
ボーモント、予言をしたアリム・ベイ、セヴァーン卿の助手サンデイも屋敷に到着しH.Mが事件の謎解きをしてみせる。卿はあの黄水仙から、執事がヘレンの帰還を知っていたと考え、ヘレンの消失劇が執事との共同犯行と確信した。気の強いヘレンは、青銅のランプの呪をいったんは実現したように見せ、後で木っ端微塵に打ち砕いてやろうと、消失劇を演じたのである。衣服とランプを残して、秘密の通路を抜けて召し使い控え室に潜り込み新入り召使いの一人になりすました。母の絵は発覚を恐れて骨董店に密かに持ち込んだ。一方、セヴァーン卿消失劇の犯人は、エジプトから黄金の短剣と黄金の香箱を持ち出し、ボーモントに売りつける契約を結んだ。彼は、ヘレン消失のトリックを見破り、まねようと考えた。卿の持ち物なら出国検査もほとんど行われないことに着目、卿とともに出国、ロンドンで卿を殺害、骨董店経由でボーモントに渡し、卿を装ってセヴァーン・ホールに舞い戻った!H.Mの話を何食わぬ顔で聴いていたが、犯人と決めつけられ、その上殺されたはずのセヴァーン卿が現れて・・・。
昔映画「王子と乞食」で見たみたいなトリックを使った人間消失劇である。種をあかせば他愛ないが、呪のかかった青銅ランプの謎を全面に取り上げ、人間消失劇を利用した犯罪を搦めるなどして物語を面白くしている。冒頭のH.Mがエジプトのタクシー運転手と料金が高い、安いでどたばた劇を演じる場面は秀逸。H.Mの人物像を読者に強く印象づける。また最後を上手にハッピーエンドにしているところも特色。
この作品はエラリー・クイーンに献げられたものである。戸川安宣の解説によるといつの頃か判然としないが、二人はたがいの家を往来して、推理小説に議論をたたかわせ、夜を徹して話し合っていた、という。(1945 40)
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