シャーロック・ホームズの事件簿  コナン・ドイル


新潮文庫  THE CASE BOOK OF SHERLOCK HOLMES

 ホームズ物語のうち、一番最後に出版された物。残り物の寄せ集めと言った感じがしないでもない。作品の発表順序になっていないし、主人公もワトソンになったり、ホームズになったり、時には第三者的に書いたりしている。この中ではソア橋がトリックが新しく、面白い。

高名の依頼人
 社交界で名が通るサー・ジェームズ・デマリの相談。オーストリアの殺人鬼にしてホームズがいつかは倒さねばと考えているグルーナ男爵が彼の娘ヴァイオレット・ド・メルヴィル嬢の心を自分のものにしてしまった。狂気の沙汰だが娘はのぼせ上がって人の言うことなど聞かない。何とかならないか。ホームズは両者に会うがらちがあかない。
 ミス・キテイ・ウインタという男爵にぼろぼろにされた女性にあったところ、男爵は自分の悪事を書いた茶色のノートを持っている、あれを奪えば・・・と言う。ホームズが男爵の手のものに襲われた。病院でホームズはほとんど、死にそうだとの情報を流す。
 そして作戦開始。男爵は陶器に目がないと知っていたから、ワトソンが偽名で明朝の珍品陶器を売りこみに行く。発覚しかかったところで、振り返ると男爵はぎょっとした。そこにホームズが見えたからだ。木の陰から細い手が伸び男爵の顔に何かを投げつけた。男爵が叫び声と共にのたうち回る。硫酸だった。茶色のノートはいつしかホームズの手に入っていた。しばらくして男爵と令嬢の結婚話が破局を迎えたとの報道。(1925.2-3)

白面の兵士
 この作品はめずらしくホームズが書き手、ワトソンは新婚旅行にでかけていないことになっている。ジェームズ・M・ドット氏は南ア戦争の勇士だが、戦友のエルズオーサ大佐の息子を訪ねたところ、父親が迷惑そうな顔をし「息子は世界漫遊の旅」に出かけたと言う。しかし母親に思いで話をしていると、背後に何かを感じ振り返ると一瞬戦友の顔が見えた。そこで再度聞いたが追い返された、と言うのである。
 私は一瞬見えた戦友の顔色を聞いただけで事件が全て解けた。戦友は・・・おっと結論を言ってしまうところだった。ワトソンはこういうところうまく読者に気を持たせるのがうまい。ドット氏と再び出かけて行き、息子が庭の中の小屋に監禁されていることを知った。大佐との対談。私が紙切れを渡すと、それまで強気だった大佐がにわかに軟化した。戦友は南アフリカでらい病にかかって帰ったが、隔離病院に入れられるのを恐れて世界漫遊などとデマを振りまいていたのだ。(1926.11)

マザリンの宝石
 王冠についているマザリンの宝石なるダイヤが盗まれた。盗んだやつはネグレスト・シルヴィアス伯爵と分かっている。ホームズが追跡していると用心棒を連れて向こうからやってきた。ホームズは「王冠ダイヤはどこにあるのです?言わなければ警察に連絡し、逮捕させるまでです。」と脅し、自分は奥に引っ込みヴァイオリンを引き始める。ホームズが消えたと伯爵が用心棒に「本物はここさ。」とダイヤを見せる。陰からホームズが現れてさっと奪いよる。ヴァイオリンはテープだったという話である。(1921.10)

三破風館
 破格の条件であなたの家をすべての所有物と一緒に買いたい、との申し出にメリー・メーバリは困惑する。相談にでかけたホームズは話を立ち聞きしていた女中のスーザンをとらえ、バーニイ・ストックデイルが命じたことを白状させる。
 買い主は一体何を考えているのだろうか。そうこうしている内にメリー・メーバリが襲われる。気がついたとき小説の一部らしい紙切れを持っていた。これからホームズは事件の概要をつかむ。悪で有名なイザドラ・クラインがメリーの息子のダグラスの書いた小説をねらっている!クラインの告白によれば、悪女も年貢の納め時になったがダグラスが古い彼女との情事をもとに小説を描き、公表する一歩手前だった。家ごと買って原稿を回収しよう、と実行に移したが失敗、それなら暴力でと考えたと言う。(1926.10)

吸血鬼
 ペルー人の娘を妻のおかしな行動についての相談。小児麻痺で体の自由が利かない夫の連れ子を打擲したり、赤ん坊の口の周りを真っ赤にして赤ん坊の首に食らいついているところを発見した。まるで吸血鬼だ。ホームズは調査の結果、連れ子が新しい赤ん坊にひどく嫉妬していること、家に南米産の毒矢があること、妻は赤ん坊の体に入った毒を懸命に吸い出そうとしていたことを発見する。

三人ガリデブ
 ガリデブという変わった名前の人が亡くなったが、ジョン・ガリデブにもう二人ガリデブという名の人を見つけて財産を三人で分けなさい、という妙な遺言だった。雑多な者を収集しているネイサン・ガリデブを発見、続いて第三のガルデイブも見つかったと喜んで出かけていった。
 しかしホームズが調べるとジョンはアメリカの名うての殺人鬼。彼はネイサン・ガルデイブが部屋を空けた好きに、部屋に隠された最新式の偽札製造器を盗ろうとしていた。「赤髭連」盟と同じタネである。(1925.1)

ソア橋
 
金山王ニール・ギブスンブラジル産の美しい情熱的な妻マリアを得たが、習慣の違いもあり、持て余し気味だった。そこに美しい家庭教師ダンパア嬢が登場し、ニールは彼女に夢中になった。ところがソア橋近くでマリアが額を銃で撃ち抜かれて死んでいた。マリアはダンパア嬢の手紙をもっており、ダンパア嬢の部屋から一発だけ撃った銃が見つかったことから、ダンパア嬢に疑いがかかる。
 しかしホームズはマリアのダンパア嬢による殺人に見せ掛けた自殺と見破る。銃に紐を結わえ付け反対側に石を結びつけ、橋の欄干に吊し、銃で自殺すると死後銃が手から放れ、重石にひかれて川に落ちる原理を利用したものである。(1922.2-3)

這う人
 若い恋人を得た大学教授ブレスベリが最近おかしくなった。夜中に起き出してよつんばいになって辺りを徘徊する、その上急に飼い犬が教授に敵意を見せるようになった、というのだ。ホームズが調べると教授はプラーグのあやしげな男から類人猿の血液を購入し、若返りを狙っていたことがわかった。(1923.3)

獅子の鬣
 これもホームズ自身の手記と言う形を取っている。ホームズ物はそれほど大きな事件にも関わらず作者のストーリーテラーとしてのうまさで持たせている作品が多いように思う。これもその一つ。
 私の居宅近くに職業教育訓練所「ザ・ゲーブルズ」があり、そこのメンバーと私は親しかった。ある時物理科の教師フィッツロイ・マクファスンが浜の向こうにあらわれたと思ったらばったり倒れた。あわてて駆け寄ると「獅子のたてがみ!」なるダイイング・メッセージを残して亡くなった。彼がモード・ベラミと言う女性につらく当たっていたこと、これをマードックという学生が心配していたことなどからいろいろな憶測が流れる。しかし真クスファンの犬が死に、さらにマードックが襲われて調査は迷走する。
 しかし症状と現場の状況をもとに私が確かめたところサイアネアという大きな水母(別名獅子のたてがみ)が犯人であることが判明した。(1926.12)

覆面の下宿人
 メロウ夫人の相談は「覆面をしたロンダという女性が下宿している。夫人の顔を一度見せてもらったことがあるがひどい有様だ。最近夫人がどんどんやせて行く。どうしたものだろう。」ホームズはアパス・パルヴァの悲劇を語ってくれた。キャラバンで獅子に餌をやるのはいつも団長のロンダ夫妻だったが、ある朝、気がつくと檻があけられ、ロンダが殺され、夫人が側で顔を食いちぎられて倒れていた。事件は腑に落ちない点がおおかったが事故ということで終わった、と言う物である。
 私とホームズが赴き、面談したところ夫人が懴悔話をしてくれた。「実はあれは夫にさんざんいじめ抜かれた私が、恋人と起こした殺人劇。恋人は、5本の釘を打ち付けた夫を殴り殺したところ、興奮した獅子が私に襲いかかったもの。恋人は恐れをなして逐電してしまった。」 (1927.2)

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