シャーロック・ホームズの帰還 コナン・ドイル


新潮文庫 THE RETURN OF SHERLOCK HOLMES  延原 謙訳

空家の冒険
 ロナルド・アデヤ卿は、カード好きだったが、その彼がドアが施錠された自室で射殺された。事件は解決しなかった。私は、町を歩いていて老人に出会ったが、その男こそあのラインバッハの滝で悪のモリアーテイ教授と共に滝壺に落ちて死んだと思われていたシャーロック・ホームズの変装姿だった。
 脱走談を聞いたその夜、私はホームズに連れられてホームズ邸の向かいの空屋から彼の書斎を眺めていた。驚いたことに、書斎にはもう一人のホームズが・・・。実は蝋人形細工で囮だったのだ。私たちは、警察の助力を得て、ホームズを狙撃しに空屋に忍び込んだ男を逮捕した。彼は、ロナルド・アデヤ卿も向かいの建物から窓越しに狙撃した。

踊る人形
 過去は問わぬと言うことで、ヒルトン・キュビットはアメリカ出身のエルジと結婚。ところがいろいろな動作をした人形の絵が自宅の敷石などに発見されると、妻はひどくおびえた様子、原因を探ってくれないかとの依頼を受けた。この人形による暗号文を、アルファベットで一番出現率の多いのはeだから、この人形はeなどと解くところがこの小説の中心。逃げ出した妻と新しい妻、それに追ってきた夫の三角劇!

美しき自転車乗り
 美しい自転車乗りの夫人からの相談。「私は母と貧しく暮らしていましたが、タイムズ紙に私を捜している広告。すぐに広告主の弁護士を訪ねるとカラザースさん、ウッドリさんなる二人の紳士を紹介されました。お二人の話では「私の叔父がなくなって、私たち母娘の面倒を見るようにと言われた。」と言うことです。ウッドリさんはいやらしい人でしたが、カラザースさんはよい人の様で、請われて十になる娘さんにピアノを教える様になりました。ところが屋敷にウッドリさんがやってきて、結婚をせまるし、自転車で通う時いつも怪しい男につけられる、どうしたらよいでしょう。」
 何回かそんなやりとりがあり、「やはりカラザースさんのところをやめることになりました。」と聞き、ホームズは行動を起こす。叔父が亡くなって自転車乗りの娘が膨大な財産を相続することになったが、間に入った二人が、どちらかが彼女と結婚して財産をかすめ取ろうと計画。うさんくさい牧師を引き入れて、いやがる娘に無理矢理結婚を迫ったのだが・・・。

プライオリ学校
 北イングランドの有名私立校プライオリ学校の寄宿舎から、前内閣閣僚ホールダネス卿の子息サルタイヤ少年が誘拐され、ドイツ語教師ハイデガが行方不明になったとの捜査依頼。調べると学校裏の荒れ地でハイデガの撲殺死体が見つかった。大問題になってホームズがホールダネス卿に面会すると歯切れが悪い。
 実は結婚前に付き合っていた女性の子が遺産の独り占めを狙って、親との交渉材料に、旅館の主人と共謀しサルタイヤ少年を誘拐したのだが、追いかけてきたドイツ語教師を殺してしまった。

黒ピータ
 海豹船乗組員だったピータ・ケアリは隠退して田舎に妻子と暮らしていたが、大酒のみで酒を飲むと暴力を振るった。庭のはずれに小屋を建て、そこには誰も入れさせなかった。そのピータが小屋で壁に飾ってあった銛を打ち込まれ壁に貼り付けられていた。落ちていた手帳にはJ.H.N、C.P.Rなどの記号。
 ホームズが駆けつけると、封印してあった現場に誰かが侵入を試みた跡。若い警官と待ち伏せていると、やせたジョン・ホプリ・ネリガンなる男が捕まった。「父の会社が倒産したとき、父が有価証券を拐帯して逐電した、との噂がながれました。幼かった私は悔しい思いをしていましたが、その証券が最近市中に出回り、出所を調べたところピータ・ケアリだったのです。それを回収しようと考えました。」
 若い警官は犯人逮捕と喜ぶが、ホームズはこの男では銛でピータを壁に貼り付けるなど無理、と考えた。

犯人は二人
 ホームズはエヴァ嬢から「ドヴァコート伯爵と結婚することになったが、以前に関係した男との手紙を種にミルヴァトンから大金を強請られている。助けて。」との依頼をうけ、ミルヴァトンは名うての強請屋で交渉するが不調。そこでミルヴァトンの女中をたらし込み、私と書類を盗み出そうと屋敷に侵入した。
 ミルヴァトンがおきてきたの隠れていると妙齢の夫人が訪ねてきて交渉開始。「私はあなたに人生をめちゃめちゃにされた。」とズドン。夫人が逃げた後、二人は恐喝書類をすべて持ちだし、暖炉にくべたのち脱出。翌日レストレード刑事がやってきて、犯人は二人組、捜査をして下さいと頼むがやんわりと拒否する。

六つのナポレオン
 何を盗むわけでもなく、安物のナポレオンの石膏像を破壊して行く妙な窃盗犯が出没。4つ目の窃盗事件の折りは凶悪犯ピエトロ・ヴェヌッチの死体までついてしまった。レストレード刑事のマフィアの争い説を一笑に付し、ホームズはナポレオンの石膏像の製造元と行き先を調査する。そして5つ目を盗もうとした男を待ち伏せて逮捕するが、男は一言もしゃべらない。最後の一つを買い求め、破壊すると中から有名なボルジア家の黒真珠が飛び出した。
 黒真珠を盗んだ犯人が石膏工場に逃げ込み、咄嗟に生乾きのナポレオン像に埋め込んだ。刑期を終えた犯人は取り返そうとナポレオン像を捜しては破壊。4つ目で盗まれたボルジア家ゆかりの男がせまったが返り討ちにしてしまった。

金縁の鼻眼鏡
 黒ピータで活躍したホプキンス警部の相談。年老いたコーラム教授の元で秘書の仕事をしていたウイロウビ・スミス青年が、書斎で部屋にあったペーパーナイフを首に突き立てられて瀕死の重傷、死に際に「先生、あの女です。」のダイイングメッセージを残した。書斎に続く小道に足跡はなく、死体の側には婦人物の金縁の鼻眼鏡が落ちていた。これだけの条件から、ホームズは犯人を応対話しぶりよき貴婦人風の女、鼻いちじるしく肥厚し・・・・などと推定し、教授に「彼女はあなたの部屋にいる。」と喝破する。かっての夫人は、シベリアの恋人を救うため、教授の持つ重要書類を盗みに来たが秘書に見つかり、はずみで殺してしまったが行き場がなくなって・・・。

アベ農園
 またホプキンス警部の相談。アベ農園ブラックンストール夫人によれば就寝まぎわに三人の男に押し入られ、出てきた夫は火掻き棒で殴り殺され、私は殴られて椅子に縛りつけられてしまった。三人は葡萄酒でかんぱいし、悠々と引き上げたが、後からきづくと銀器がなくなっていた。
ホプキンスは今荒れ回っているランドール一味の仕業と断を下すが、ホームズはどうも腑に落ちない。泥棒たちはなぜ宵のうちに忍び込んだ?弱い女をなぜ殴りつけた?三人でなぜたった一人の男を殴り殺した?なぜワインの汚れがふたつのグラスについていない?しかもなくなったはずの銀器が庭の池の中で見つかった。夫婦で真犯人をかばっているのではないか。夫の暴力になやむブラックンストール夫人を昔の恋人がなんとか助けようとした。しかし夫が侵入してきて・・・。

第二の汚点
 総理大臣を勤めたベリンジャ卿と大臣のトリローニ伯爵がホームズのもとに「某国から渡された、それが公表されれば戦争を引き起こしかねない書類が伯爵の書斎の状差しから消えてしまった。なんとか秘密裏に捜して欲しい。」と青い顔で依頼してきた。外から賊の入った様子はない。伯爵夫人からもどんな書類がなくなったかの問い合わせがくる。
 こんな書類を持ち出して他国に売る可能性の有るスパイは3人しかいない。ところが一番怪しいエズアルト・ルーカスは自室で何者かに殺されていた。部屋を捜査したホームズは絨毯の裏に血痕がついていること、秘密の隠し場所が有ることを発見したが、書類はすでになくなっていた。
 婚前の不行跡を種に強請られた夫人は重要書類を盗み出しエズアルトに渡したが、そこにエズアルトの女がやってきてエズアルトと大喧嘩。そっと逃げ帰って来たが、ニュースでエズアルトが殺された事を知った。そこでとぼけて出かけて行き、見張りを巻いて書類を取り返してきた。ホームズの指示は「さあ、ご主人が来る。状差しに返しておきなさい。」戻った伯爵、状差しを再チェックして「そんな、馬鹿な・・・・。」コメデイ映画になりますな、これは・・・。

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