シャーロック・ホームズ最後の挨拶 コナン・ドイル


新潮文庫 HIS LAST BOW  延原 謙 訳

 ホームズ物語の第四編。1908ー17の10年間に発表されたものを治めてあり、必ずしも時代順になっていない。今度こそホームズ物をおしまいにしようと「最後の挨拶」をいれているが、これは戦争で息子を失い、ドイツに対する憎しみをこめて書いたものとも解釈できる。作品の中ではプルース・パテイントン設計書とフランシス・カーファクス姫の失踪が面白い。前者は列車による死体の移動、後者は棺桶に二人いれて埋葬するくだりが興味深い。
ウイステリア荘
 スコット・エクルズは、ガルシアと知り合い、ウイステリア荘を訪問する。しかし、ガルシアはいやにそわそわしている様子で、翌日目が覚めると、家の者全員が消えていた。ホームズが事情を聞いていると、そこにエクルズを捜して刑事がやってくる。「ガルシアが死体で発見された!」そして奇妙な手紙「我が色は緑と白・・・・。」ホームズは、ガルシアが何かのアリバイを作ろうとして、エクルズを呼んだが、緊急事態が発生し逃亡したと考えた。付近を調べ怪しい者を探したところ、ヘンダーソンなる男を発見する。捕らえた召使いなどの証言から、彼こそ南アメリカサンペドロ国に君臨していたが、その後追われたホアン・ムリロだった。ガルシアは、故国での恨みを晴らしにムリロを追っていたが、返り討ちにあってしまった。緑と白はサンペドロの国旗の色だった。 (1908.9-10)

ボール箱
 クロイドンに住むミス・スーザン・カッシングの元に塩と共に二つの人間の耳をいれた箱が送られてきた。箱はごく当たり前のもの、塩は低級品、紐の結びは水夫特有のものだった。スーザンは心当たりがないという。
 しかし追求して行くと、彼女にはセーラ、メアリの二人の妹がおり、メアリは船乗りのジム・ブラウナーと婚約していた、と判明する。三角関係のもつれと判断したホームズはレストレード警部にブラウナーを追わせる。(1893.1)

赤い輪
 大家のワレン夫人の相談は、ある客が法外な賃料を払ってくれたが、一度も顔を見せない、どうしたことだろう、というもの。しばらくして夫人は襲われ、馬車で引き回されたあげく解放された。
 ホームズは部屋に誰かが隠れており、追いかける方は間違えて大家をさらった、と読む。そして家を戸外から見張っていると何やら閃光信号!この件につき、アメリカピンカートン探偵局の男が来英していた。彼は赤い輪という殺人集団のゴルジアーノを追っているという。やがてゴルジアーノの死体が発見された。
 逃亡していたアパートの客ジェナロがすべてを告白するが・・・・。(1911.3-4)

プルース・パテイントン設計書
 官営兵器工場職員のカドガン・ウエストの死体はオールドゲート駅近くで発見され、ポケットのは極秘のブルース・パテイントン式潜水艦設計書10枚のうちに7枚を所持していた。上役のジェームス・ウオルターはこれを嘆き他界してしまった。設計書を収めてある金庫に出入りできる人物は限られているのだが、犯人はようとして分からない。
 しかしホームズはウエストが余所で殺され、死体が屋根の上に載せられ、発見場所で落下したと考えた。そして国内に滞在するスパイリストからオーバーシュートなるロシアのスパイに目をつけ、不在の屋敷内に侵入、証拠をつかむ。
 そして囮の広告を新聞にうち、スパイ宅でじっと待ちかまえていると意外な犯人が・・・・。
なかなか良くできた短編、横溝正史の「探偵小説」を思い出した。(1908.12)

瀕死の探偵
 ホームズの下宿のおかみハドソン夫人がワトソン博士のところに相談にやってくる。「食事をとらず、やせて行くばかり。」ワトソン博士が行くと本当に重病のようだ。「離れていてくれ、アジアの風土病にかかった。僕も最後だ。」ワトソンが机の上の象牙の小箱に触ろうとすると「僕の道具に触るんじゃない。」結局最後に「カルヴァートン・スミスがこの病気に詳しい。甥の死に関し、僕に恨みがあるかも知れないが、そこを頼んでなんとか連れてきてくれ。」
 スミスがやってきて、いまわの際と甥殺しを語ってやると、ホームズは突如と立ち上がり「とうとう、尻尾を出したな。」と手錠をがちゃり。「あの象牙の箱が蓋を開ければ毒ばりの飛び出す装置だって事くらいお見通しさ。」なんだかイソップ物語みたいですな。(1913.12)

フランシス・カーファクス姫の失踪
 身よりがないが金はある独身女性フランシス・カーファクス姫が行方をくらました。ワトソン博士がローザンヌに出向いて調べると、フランシス姫は南米から来たシュレシンガー博士夫妻と知り合い、博士の非凡な人格、全霊的な信仰、伝導の実践中にかかった病気の回復期にあるのだという事実などに感銘を受けた。そして博士夫妻と共にロンドンに赴いたと言う。
 しかしホームズの捜査の結果、シュレシンガー博士というのは神聖ピーターズと言い、オーストラリアの産んだもっとも無法な悪漢とのこと。そしてロンドンで日を経ずしてカーファクス姫の宝石が入質された。注文した家からは棺桶が特別注文された。ホームズは無法を承知で乗り込んで調べるが、棺桶には90の婆さんの死体があるのみだった。
 「カーファクス姫を殺したとしてどうやって埋葬するのだろう。」と散々考えたホームズは出棺の日、押し掛けて強引に棺桶を再び開けると、婆さんの死体の上にクロロフォルムで眠らされたカーファクス姫!デイクスン・カーの作品の原型にでもなったような作品である。(1911.12)

悪魔の足
 モーテイマー・トリニゲスがコーンウオールの兄弟の家を訪ねると、妹は腰掛けたまま死んでいるし、兄弟はすっかり気が狂っていた。なぜか不思議にその部屋には火が入っていた。アフリカでの経験が長いスタンデール博士がホームズを訪れるが、詳細を説明しなかったため、彼は帰ってしまった。そして翌日同じようにモーテイマーが死体となって発見された。やはりランプの灯がついていた。
 わずかに残っていた粉が害をなすのではないかと、燃やしてみるとホームズも気を失うほど。再びスタンダール博士が登場し、粉がアフリカで「悪魔の足」と呼ばれる猛毒であると説明する。「私は亡くなったブレンダ・ロドリゲスを愛していたのだ。二週間前にモーテイマーが、私のところに来てあの粉を盗んでいったから、犯人であることははっきりしていた。そこで私が復讐した。」モーテイマーの犯罪動機は遺産の独り占め。
 本当にこれほど燃やしたときに折衝能力のある植物が存在するのかどうか、是非知りたいところである。(1910.12)

最後の挨拶
 第一次世界大戦、いよいよイギリスとドイツが戦うことになり、ドイツのスパイ、フォン・ボルグは数々の集めた資料を土産に英国をさろうとする。ところが使っていたアメリカ人が妙に反抗的。ようやく金を渡して資料の包みを開けると「実用養蜂便覧」あっと驚いた隙にクロロフォルムを押しつけられた。
 隠退していたはずのホームズだった。悔しがるフォン・ボルグを横目にホームズとワトソンがシェーンブルン宮殿のワインで乾杯!(1917.9)
991014