死因             パトリシア・コーンウエル


講談社文庫 CAUSE OF DEATH 相原真理子 訳

 その年の大晦日、チェサピーク警察からチェサピーク湾にある元海軍造船所の潜水禁止地域で白人男性死体が発見された。駆けつけると良く知っているAP通信記者のテッド・エデイングス、ダイビング中に溺死したものと考えられたが、遺体を解剖するとアーモンド臭。青酸ガスによる毒殺の可能性が高い。
 怪しい男がスカーペッタの動向を探っているらしい。地元の警察は非協力的だ。この事件の背後に何があるのだろう。エデイングスの部屋を探るとジョエル・ハンドを教祖とするニュー・シオニストなるオカルト教団の「殺し、傷つけ、おびえさせ、洗脳し、拷問する」バイブルが発見された。スカーペッタの指示で事件を追っていた解剖助手のマントが、射殺死体で発見された。マントを運んだ車の中から微量のウラニウム235が発見された。
 突然オールド・ポイント原子力発電所が、テロリストたちによって乗っ取られた。海軍の口からようやくニューシオニストたちが違法な中古原子力潜水艦の輸出を手がけているらしいこと、彼らがリビアとつながっていることが明らかにされる。今回彼らは原子力発電所から燃料棒を取り出し、それをリビアに輸出しようとしていることが明らかになった。
 テロリストたちは既に数人の職員を殺しているらしい。三十人くらいのグループらしく、監視が行き届き、入り込めない。FBIの指示でスカーペッタの姪の天才プログラマールーシーは、ロボットを発電所に侵入させようとする。
 突然犯人側からの応答で、どうやらジョエル・ハンドが放射能で汚染されたプールに落ち、引き上げられたが危篤状態、医者をよこせと言うのだ。スカーペッタは、昔の恋人でFBI心理分析官ウエズリーの制止を振り切って侵入。もう助かる見込みのないハンドを生きているように見せながら、状況打開のチャンスをうかがう・・・・。

 これまでの作品と同様、最新の機器とテクニックを使った科学捜査の実態や法医学的デイテールの記述がつぶさに描かれ興味深い。訳者あとがきに紹介されている「私は架空のことは書きません。」とのべ、冒頭シーンを書くためにスキューバダイビングを練習し、実際に十メートルの深さまで潜ったという話に頭が下がる。
 ケン・スカーペッタという女性はどういう女性なのだろうとふと思った。年は40近く、医者として非常に有能だがおそろしく気が強い。冒頭の死体があがって自分が行くまで待たせるケースなど待たせた者に対するねぎらいの言葉もなく、かなわないな、という気がする。離婚歴があり、単なるお友達の警部のピート・マリーノと助けたり、助けられたりしながら自由奔放につきあっている。仕事に充実感を感じ、女性としての寂しさなんか感じないのかなと思ったら、ウエズリーと簡単に一夜を共にしたりする。男をどう考え、自分の行く先をどう考えているのだろう。
 物語という点から行くと、ニューシオニストグループの活動目的が、今一つはっきりしていないことが気になった。ここの部分のみ作者が見聞きし、頭で作り上げたものだからだろうか。

・青酸カリのにおいを感知する能力は性染色体に関係した劣性形質で、それを持つのは人口の三十パーセントにすぎない。私は幸運にもその中に入っている。(63P)
・ルーシーはundelete.**と打ち込んでエンター・キーを押した。まるで魔法のようにkilldrug.oldという名前のファイルが画面に現れた。(147p)
・すすり泣く、泣き叫ぶ、わめく、怒鳴り散らす、無表情のママなど、人々はありとあらゆる反応を見せるが、どんなときにも私は医師であらねばならない。・・・・なぜなら、私はそのための訓練を受けているのだから。
けれども私自身の感情は、外に出してはならなかった。私が取り乱すところは誰にも見せたことがない。結婚しているときでさえそうだった。(166p)
・ウラン235と238について(342p)
・青酸ガス・・・彼女が平然と瓶の中で塩酸と青酸カリを混ぜ合わせ、発生したガスをコンプレッサーのインテークバルブに吸わせているところを想像した。(433p)
990716