思考機械の事件簿 ジャック・フットレル


創元推理文庫 THE THINKING MACHINE 宇野 利泰 訳

なかなかの本格物で、プロットよりもトリックが面白いと思った。以下にトリックを中心に解説。

「思考機械」調査に乗り出す
食い詰めた俳優から「臨終の老人のふりをさせられ、金をもらった。そしてその後しばらく意識を失っていた。」という話を聞き、調査に乗り出す。相続による遺産の横領と昇こうによる毒死が面白い。

謎の凶器
鼻と口をおおう容器をかぶせ、そこを真空にする殺人。76Pにやり方が書いてあるが、真空ポンプでひくと考えればいいだろう。

焔をあげる幽霊
宝物の隠してある古い屋敷に人を近づけないための話。移動式鏡の映像による幽霊。焔をあげるところは「酸性白土にグリセリンその他二、三の化合物を混合したもの」を空気中にさらすと、ややあって、白い焔をたてて燃えはじめるという。

情報洩れ
株式買い占めの情報がどういう訳かつつぬけ。実は秘書がそっと電話のフックをあげ、タイプを打つふりをしながらモールス信号をうつ。遠隔地にいた男がそれを解読して情報を得ていた。

余分の指
ある医者のところに、私の指を切ってくれ、と貴婦人がやってくる。医者は断るがしつこく希望。実は指のない相続人を殺し、それに成りすまして遺産を受け取ろうという魂胆。

ルーベンス盗難事件
別の絵を模写している最中にルーベンスの高価な絵画がなくなってしまった。実は盗んだルーベンスの絵に糊をはり、その上に別の絵を模写したものだった。

水晶占い師
水晶をじっと見詰めているとやがて自分自身が見え、それが誰かに殺される場面。実は地下に自分の部屋と同じ部屋が作られ、そこで演技し、その像を暗い室内映し出した物だった。

茶色の上着
銀行強盗で捕まった犯人が金のありかを白状せず、面会のおり妻に「寒いから茶色の上着を修理して持ってきてくれ。」と頼む。「思考機械」が調べたところ、金のありかをしめした文書は、茶色の糸巻きの中の穴に入っていた。

消えた首飾り
あるパーテイで貴婦人のつけていた真珠の首飾りが突然消えてなくなった。「先端に締める具のついた丈夫なゴムバンドを肩に結び、上着の袖の中を通して、カフスの裏まで引っ張った道具」による窃盗と、伝書鳩を使ってバラバラにした真珠を隠れ家に運ぶところがミソ。

完全なアリバイ
殺害が行われた深夜のその時間、犯人と目される男は歯医者に行っていたという。歯医者の時計の「ピンを引き抜き、指針をちょっと一時間遅らせただけ。」の行為で男はアリバイを作っていた。

赤い糸
ガス管出口から強く空気を吹き込み、他の部屋のガスを消し、それにより住人をガス中毒にかからせる方法。アパートの様に連続したガス管の場合に適用出来るが、目的とする相手がその時ガスを使っており、他は使っていない事が条件になる。この小説では間違い殺人なども登場させている。

(参考)十三号独房の問題   世界短編傑作集5
思考機械は「脳髄さえつかえば、監獄脱出なんぞ易易たるものだ。」と宣言。ミネソタ州のチッザム刑務所で、実際に試してみることになった。独房に閉じこめられた思考機械は、最初は吏員を買収したり、靴のヤスリで窓を切ろうとしたり、外部と連絡を取ろうとしたりでうまく行く様には見えなかった。しかし約束の日には、刑務所署長のもとにちゃんと招待状、会場にはどうしたのか思考機械の姿。実は多くのネズミの姿に目を付け、下水管を発見、外部にいる新聞記者と連絡、硝酸入りの小瓶を届けさせる。それにより停電を起こし、硝酸で焼き切った窓から脱出、迎えに来た新聞記者の用意した配管工の服に着替え、悠々と脱出したものだった。