創元推理文庫 THE SECRET HOUSE OF DEATH 成川 裕子訳
いつも窓をとざし、庭には水仙の花が咲き乱れる「プレイサイド」、いつの日からかこの家に主人の留守中訪れる集中暖房工事の販売員、近所の口さがない連中はさっそくゴシップを立てはじめる。隣家のスーザンは夫に浮気をされ、出ていってしまわれた身、今は幼いポールと二人暮らし、彼女は三人の道路工事の男たちを見ながら毎日タイプを打つが、経験からこの話しには深入りしない方がいい、と感じる。
やがて「プレイサイド」の妻ルイーズと、集中暖房工事セールスエンジニアバーナード・ヘラーが、ベッドで頭と腹を撃ち抜いた死体となって発見された。警察はいったんはバーナードがルイーズを殺し、自殺したと発表するが・・・・。
スーザンの記憶に見えなかった部分が、見えてくる、あの日に限って工夫は4人だった。そのうちの一人が「プレイサイド家」に入っていったが、不思議に犬が吠えなかった。そして死んだルイーズの夫ボブが、親しげな態度を見せはじめる。一方真実追求を始めたバーナードの親友デイヴィッドは、ボブとバーナードの妻マンダリンが遊覧船のちょっとした事故で知り合い、かなり前からいい中だったことを突き止める・・・・。
この小説は、心理小説でミステリとは違う。犯人は13章冒頭で「ウルフ警部はロバート・ノース(ボブ)が妻と愛人を殺したのだと知っていた。」と明らかになってしまう。しかしそれから作者は、手持ちのカードを一枚一枚あけてゆきながら、過去に夫に逃げられたスーザンの気持ち、デイヴィッドの心づかい等を丁寧に描き、そもそもこの犯罪はどうして起ったのか、を明らかにしてゆく。彼女の作品を読むのは「ロウフィールド館の惨劇」に続いて2作目だが、心理描写の適確さ、と平凡な生活の中に平凡な顔をして突然入り込む狂気といったものがよく描かれていると感心する
・今ではスーザンは他人なのだ。やさしい思いやりはエリザベスのものなのだ。、とはいえ、スーザンがいまだに彼を愛しているというわけではない。彼女がさびしく思うのは、妻であったとき、男が何かを決める際には真っ先に思い浮かべる存在であったときには当たり前だった事柄が、もはやそうではなくなったという事だ。人は結婚していると完全に自分一人という事は、ありえない。自立した人間ではありうるかも知れないが、それはまた別の話しだ。(122P)